全学を挙げた「禅」研究により、現代社会に新たな提言を! 駒澤大学の「禅ブランディング事業」

1592年、曹洞宗の古刹「吉祥寺」内に作られた「学林」を起源とする駒澤大学。平成28年度文部科学省の私立大学研究ブランディング事業では、「『禅と心』研究の学際的国際的拠点づくりとブランド化事業」を掲げ、採択を受けました。禅の研究を通じて、現代人が抱える「心」の問題に取り組み、新たな提言を行うこと。禅を超領域的に研究することで新たな視座を獲得すること。そして坐禅が身心に与える影響を科学的に検証することを目標に取り組んでいます。

なぜ今、「禅」が求められるのか

――禅ブランディング事業について、具体的にどのように進めておられますか?

角田「曹洞宗の歴史と思想、坐禅作法を研究する『曹洞禅とその源流研究チーム』。文学や芸能、美術などへの禅の影響を研究する『禅の受容と展開研究チーム』。坐禅が人の体と心にもたらす影響・効果を研究する『禅による人の体と心研究チーム』。禅が現代社会に与える影響を研究する『禅と現代社会研究チーム』。以上4つの研究チームに全学部の教員数十名が分かれて所属し、それぞれに研究を推進。その成果を『世界発信チーム』がWEBサイトなどを中心に発信しています。」

――まさに全学を挙げての取り組みであることが伝わってきます。それにしても古くから存在する「禅」が、21世紀の社会で求められている理由とは何でしょうか?

角田「私は普段から仏教学部で曹洞宗に関する研究に携わっており、『曹洞禅とその源流研究チーム』のリーダーを務めています。近年、改めて禅が社会の注目を集めているのは、ストレス社会の中で人々のストレスを低減する方法が強く求められているためだと思います。例えば、ストレス対処法として知られるマインドフルネスは、1970年代の米国で曹洞宗の坐禅にヒントを得て生まれました。また、米国アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏は若い頃にインドで仏教に出会い、その後米国で禅センターに通い、本学卒業生である乙川弘文老師に師事したことが有名です」

各務「私はグローバル・メディア・スタディーズ学部でグローバル企業の経営戦略について研究していますが、情報過多・急激な技術革新・急速なグローバル化など、働く人の集中力が散漫になる環境が年々強まっていると感じます。グーグルやインテルなどシリコンバレーの名だたる企業が競ってマインドフルネスを採り入れたのも、オフィスの中で精神集中する時間をわずかでも持つことで、働く意欲やアイデアが生まれやすいことに気付いたからだと思います」

名古「私は普段は医療健康科学部で診療放射線技師の養成に携わっており、『禅による人の体と心研究チーム』のリーダーを務めています。坐禅の効果を科学的に捉える方法には脳波測定やMRI(磁気共鳴画像法)があり、脳波測定に関しては本学の文学部心理学科の先行研究があります」

角田「実は私も以前に坐禅中の脳波測定をしてもらったのですが、体によいα波が多く検出されました。精神を安定させる脳内物質セロトニンの増加も確認され、これが薬に頼らないうつ病治療につながる可能性もあると医学研究者からお聞きしています。従来、坐禅の効果は体験的に語られることが多かったのですが、科学的に立証できる時代になってきました」

ロジックの通用しない
場面でこそ「坐禅」が活きる

――一般的に、「禅」と言われて思い浮かぶのは坐禅ではないでしょうか。改めて坐禅の意義
について教えていただけますか?

角田「ここまで禅のストレス低減効果についてお話してきましたが、本来、坐禅は“目的を持たずに坐る”“無条件にただ坐る”ことに意義があるのですよ」

各務「そこを理解していただければ、多くのビジネスパーソンが救われますね(笑)。常にロジックを組み立てて対応するのがビジネスですが、世の中にはロジックだけで対応できないこともたくさん存在します。そんなとき、坐禅を通してビジネスを忘れることで、かえって次の展開が見えることがあるのかもしれません。“目的を持たない時間に価値を見出した”とも考えられますね。禅がシリコンバレーの人々に支持された理由はこの辺りにあるのではないでしょうか」

特設サイトでの発信や各種イベントを精力的に展開

――ブランディング事業の成果について教えてください。

各務「研究成果の発表の場としてWEBサイトhttps://www.komazawa-u.ac.jp/zen-branding/を設け、研究活動が進むたびにコンテンツを順次アップしています。2018年度だけでも『禅の国際化』講演会、『禅の歴史』連続講座、『禅と心』研究シンポジウム、そして坐禅会など、さまざまなイベントを精力的に開催し、ポスター、インスタグラムなどで告知しています」

角田「ブランディング事業のキャッチコピーは“ZEN,KOMAZAWA,1592”。この活動を本学の学生はもちろん、広く世の中に知っていただきたいです。仏教学部の学生はみな知っていることですが、本学が曹洞宗と深く関わる大学であることは意外に知られていません。ちなみに全学部で1年次必修科目となっている『仏教と人間』では、仏教と禅の基礎的な知識を学ぶことができます。これを受講すれば、ジョブズ氏があれほど禅に傾倒した理由もおわかりいただけると思います」

生涯を通じて糧となる「禅」の学び

――高校生に向けてメッセージをお願いします。

角田「駒澤大学は国内最大級の仏教研究・教育機関です。図書館の蔵書は約120万冊に上り、仏教書のコレクションは全国有数。禅関連の蔵書数は世界一でしょう。さらに仏教関連だけで24名の教員が在籍するのも本学ならでは。人生には一本貫いた“筋”が必要です。仏教を学ぶことで“筋”が身に付くはずです」

名古「私の学部の学生はみな、診療放射線技師を目指しています。診療放射線技師の養成校は全国に51校ありますが、仏教と禅の心を学べるのは駒澤大学だけ。私自身も本学の出身で、卒業後に長く大学病院に勤務しました。医療の現場には心も体も弱った方がたくさんおられます。そんな方々と向き合うとき、大学時代に受けた“心の教育”がとても役に立ちました」

各務「私の学部には将来グローバルに活躍したい高校生が多く入学して来られます。グローバル社会とは自分の価値観が通用しない多様な相手とコミュニケーションしていく社会。当然ストレスが増えますが、禅の考え方が習慣化すれば乗り越えることができるかもしれません。さらに日本人のオリジナリティとして禅を理解することで、多様化する社会の中で確かなアイデンティティを持ち続けることができるはずです」