世界も認める研究力の高さ その秘密は、自由にテーマを選べる風土 異分野融合を進めながら超高齢社会の課題に挑む

世界トップクラスの科学誌ネイチャーが「高品質な科学論文を最も効率的に発表している大学」として日本の1位 (Nature Index 2018 Japan)と認めた学習院大学。世界的な注目研究者のお一人、理学部生命科学科の高島明彦教授にお話を伺いました。

高島先生が取り組んでいるのはアルツハイマー病。その原因物質が「タウ」というタンパク質ではないかと考え、20年以上にわたって研究を進めてきました。患者さんの脳ではタウが糸クズのような異常な姿になってたまっています。なぜ糸クズ状になるのか、それがどのようにして認知症状を引き起こすのか──こうした謎に挑んできました。ですが、アルツハイマー病の研究としては、タウは主流ではなかったのです。糸クズのほかに、患者さんの脳にはもう1つの特徴があります。老人斑と呼ばれるシミで、その主成分は「アミロイドβ」です。90年代中頃からつい最近まで、研究の主流はアミロイドβでした。ある国際学会では、アミロイドβの研究発表の部屋は満員なのに「タウの部屋には10人ほどしかいなかった」と高島先生は笑いながら振り返ります。主流のテーマには研究予算もたくさんつきます。アミロイドβを研究しようとは思わなかったのでしょうか。「あちら(アミロイドβ)はすでに大勢の人がやっていました。私がやる必要はないと思ったんですよ」。迷いのない答えが返ってきました。

大きな転換期を迎えたアルツハイマー病研究

アルツハイマー病の研究は今、大きな転換期を迎えています。どうやらアミロイドβは真犯人ではなかったようなのです。アミロイドβを取り除く薬が開発され、実際にその薬のおかげで患者さんの脳からアミロイドβがなくなったにもかかわらず、症状は進行していました。これでは治療薬にはなりません。
アミロイドβの代わりに今、本命視されているのが、高島先生が20年以上にわたって研究を進めてきたタウなのです。

研究とは、暗闇に灯りをつけるようなもの

主流ではない研究を続けるには胆力がいりそうです。高島先生は若いころ、先輩からこう言われたといいます。「科学研究というのは、暗闇のなかに灯りをともすようなもの」。もとはある著名な科学者の言葉だそうですが、「本当にその通り」と高島先生は言います。「ぱっと灯りがついて、初めてそこがどういう場所かがわかる。パァーと次の道が開けてくる。これを見ているのは、自分だけなのだという、その感覚。それが研究の醍醐味です」。

分野の違う人と話す楽しさ

学習院大学では、文部科学省の私立大学研究ブランディング事業に選ばれた「超高齢社会への新たなチャレンジ」に力を入れています。認知症や再生医療、がん・老化といった生命科学系の基礎研究を中心に据え、その成果からさらに進んでいく超高齢社会の現実的な課題を議論する場として、法学や心理学、経済学などの人文・社会科学系の視点を加えた新しい学際領域「生命社会学」を創成しました。同じキャンパス内にすべての学部があることを最大限に活かした事業です。この事業を通して、高島教授は法学部や文学部の先生方とも議論をするようになりました。理化学研究所や国立長寿医療研究センターなど、理系研究者ばかりの組織にいた高島先生にとっては、あまりなかった経験です。「これがね、本当に楽しいんですよ。予想外の視点から質問が飛んでくる。ぱっと視野が広がる感じを何度もしてきました」。こうした会話のなかから、いくつもの研究のアイデアをもらったとも言います。自由に研究テーマを選べ、まったく違う分野の人とも同じキャンパスの中で日常的に会話を交わすことができる──学習院大学は研究をするにはまさに理想的な環境にあるのかもしれません。


学習院大学研究ブランディング事業「超高齢社会への新たなチャレンジ-文理連携型〈生命社会学〉によるアプローチ-」は、認知症・がん・老化・再生医療の基礎分野におけるフロント研究を推進。その急速な進展に伴い生じうる社会的諸問題と対応について、文理連携による統合的議論を深めるための場として学際領域〈生命社会学〉を創成、基礎教養科目として学生の教育に供するとともに、超高齢社会の未来に対応可能な社会基盤の整備に向けた提言を目指します。

2018年度 学習院大学研究ブランディング事業の成果(一部)

基礎教養科目「生命社会学」
毎回違う文理両分野の教員2名が同一テーマについて講義。それを聴講したうえで学生同士で議論と発表を行う。従来とは全く違う新しい方式の授業を行っています。
ブランディングシンポジウムの開催
年2回、学生・関係者だけでなく広く一般の人を対象に、ブランディング事業に関連する成果を発表。多くの方に参加いただき好評を得ています。

2018年度実施の研究プロジェクト
「認知症で観察されるタウ凝集機構解明」「DNA損傷ストレスがゲノム不安定化を引き起こすメカニズムの解明」「モデル生物ショウジョウバエの老化状態に認められる様々な生理特性の解析」「四肢の関節再生を惹起するシステムの解明」ほか