ガンダムの世界観を実現するには?
社会が求める実践的な技術者を養成。

高1で出会ったガンダムが航空宇宙工学への入り口に

高校1年のとき、ファーストガンダムを見て、航空宇宙工学分野を志しました。高校の図書館で『航空宇宙便覧』を読み込み、ロケットや飛行機について自分なりに調べ、夢をかなえるために受験勉強に励みました。私がガンダムの世界に惹かれたのは、地球~月間に人々の生活圏がある世界が近未来に実現可能と考えたからです。戦闘用巨大ロボットは中に乗り込む人間の安全性が担保されないため、おそらくファンタジーで終わるでしょう。しかし、スペースコロニーで人々が暮らす世界は、50年後に実現する可能性が充分にあります。宇宙空間で人々が暮らすためには、必ずそこへ物資を運ばなくてはなりません。そのため、輸送用ロケットの需要は今後も高まるはずです。

航空機やロケットにもっとも求められるものは「安全性」

研究室では、おもにジェットエンジンとロケットエンジンについて研究を進めています。具体的には、産業用エンジンのプロペラ形状などを工夫し、空気の流れをコントロールして省エネ効率と静音性を高めたり、ジェットエンジンの騒音発生のメカニズムを調べたりしています。意外に知られていませんが、ジェット燃料の主原料は灯油です。灯油は比較的燃えにくい原料ですが、安全性を保ちながら効率よく燃焼させるにはどうすればいいか。そんな研究も行っています。
科研費を利用して取り組んでいるのは、シンセティックジェットに関する研究です。ジェットエンジンには空気を吸引する通路と噴出する通路の2方向の通路が必要ですが、シンセティックジェットなら1つの通路で吸引と噴出を交互に行い、低コスト化につながります。1990年代から研究が始まった分野で、実用化まであと20年はかかるといわれる、先の長い研究です。それほど航空機やロケットに使われる技術は安全性が重要なのです。

恵まれた環境を活かし、企業が求める人材へと成長

研究では実験、シミュレーション、理論の3方法を併用。学生は4年次春から研究室に入り、実験やシミュレーションに参加します。
例えば、ある実験には航空機の尾翼モデルが必要です。そこで学生がCADソフトで設計し、3Dプリンターでモデルを製作。その後、実験に臨むのですが、夏休み中には自分なりの実験ができるまでに成長します。圧力計算と速度計算を一体化して解くPCでのシミュレーションについても同様です。
私が学生に実験やシミュレーションを徹底して経験させる理由は、就職後に技術職として必須の素養だから。企業が求めるのは、CAD も実験もシミュレーションもできる人材。そのためには学生時代から手を動かし、経験を積む必要があります。
さらに将来、学生が社会で活躍するためにも、卒業研究では「1 人 1 テーマ・2 研究手法」を課しています。有難いことに、青山学院大学は各種実験設備が豊富。学生はこの恵まれた環境をフル活用し、技術者として社会へ羽ばたいて欲しいと思ってます。

機械創造工学科の大型実験施設には、風洞実験や水力発電などの実験設備が所狭しと並ぶ。学生一人ひとりが役割分担し、作業に余念がない。
デトネーションは燃焼が超音速で伝わる現象で、極超音速機や宇宙住還機の燃焼室で高速燃焼させるためのテクノロジーです。

好奇心と想像力を糧に宇宙へ、大空へ。
研究対象は宇宙の彼方の爆発現象。
理論・観測・実験から事象の本質を捉えよ。

宇宙でもっとも激しい爆発現象
「ガンマ線バースト」とは?

私の研究室では、高エネルギー宇宙物理学の理論研究および、観測・実験研究を行っています。
宇宙から地球へは、目に見える可視光だけでなく、目に見えない波長の電磁波や宇宙線、ニュートリノ、重力波が飛んで来ます。その中で、我々が研究しているのは、宇宙で最も劇的な爆発現象である「ガンマ線バースト」。電磁波の中で最も波長の短いガンマ線が1000分の1秒~1000秒という、ごく短時間に観測される現象で、実は、地球1000個分の質量エネルギーに相当するエネルギーを解放しています。
ガンマ線バーストは1960年代に発見されましたが、いまだにその正体は不明。100億光年以上離れた宇宙の彼方で起きることがわかっており、現在世界中で活発に研究されています。ほかに超新星残骸や中性子星、ブラックホールなどでも高エネルギー天体現象が発生し、これらの現象を研究する学問を「高エネルギー宇宙物理学」と総称します。

世界の名だたる
観測プロジェクトに参加

ガンマ線や重力波の観測には巨大かつ高コストな施設と膨大な人的資源が必要で、とてもひとつの大学で行えるものではありません。そこで私たちもグローバルプロジェクトに理論担当として参加。地上チェレンコフ望遠鏡(CTAによる超高エネルギーガンマ線観測)、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」、ガンマ線観測衛星「フェルミ」などで得られた観測結果の理論解釈を行い、論文にまとめています。理論担当の研究者は物理的・数学的な計算から「こんな現象が見えるはず」と予測し、観測担当の研究者に伝えて、自分たちの理論を検証してもらうのですが、自分たちの科学的な「予言」が観測で確かめられれば自分たちの理論が証明されたことになります。これが理論研究の最大の醍醐味。世の中にはさまざまな学問が存在しますが、未来を予言できる学問など滅多にありません。

地上で天体現象を再現する「実験室宇宙物理学」

高エネルギー天体現象は地球から遠く離れた宇宙で起きるため、当然ながら現場まで行くことはできません。それならば、いっそのこと地上の実験施設で天体現象と同じ状況を創り出してはどうか。地上なら細かな条件まで手元でコントロールでき、天文観測とは桁違いに豊富なデータを得られるのではないか――そんな考えから始まった新しい学問分野が「実験室宇宙物理学」です。私の研究室では、6年前から大阪大学レーザー科学研究所と共同で大型レーザーを用いた衝撃波の生成実験を続けており、ガンマ線バーストや超新星残骸といった高エネルギー天体現象でカギとなる衝撃波での物理過程の解明にむけて、ようやく解決すべき課題が明確になりつつあるところです。実験では、学生が主体となって実験設備を設計・製作し、実験にも立ち会います。若い人の発想にはハッとさせられることが多く、今ではかなりの範囲を学生に任せています。学生が役割分担しながら実験の準備や遂行をする過程ではさまざまな議論があり、活発なコミュニケーションの輪が拡がります。そこで身につく論理的思考力や物事の本質を捉える力は、学生にとって生涯の財産となるはずです。

ブラックホール周囲の降着円盤から放出される相対論的 ジェットがガンマ線バーストを引き起こすと考えられている。
大阪大学レーザー科学研究所との共同実験に備えて、学生がCADソフトで実験設備を考案中。アルミニウムにレーザーを照射し、衝撃波を生み出す計画だ。