水と空気だけのクリーンな技術。 「マイクロバブル」が未来を変える!?

「マイクロバブル」とは、発生時の直径が1~100マイクロメートルの超微細な気泡のこと。近年高い注目を集める、日本発の革新的技術です。
この研究分野において2019年度より科研費が採択されたのが、福岡工業大学の江頭竜教授。まだまだ解き明かされていない未知数の分野に、風穴を開ける日もそう遠くはないかもしれません。

日本が世界をリードする
マイクロバブルの未知なる世界

みなさんは、「マイクロバブル」という言葉に聞き覚えはありますか?このマイクロバブルとは、2005年頃に日本で誕生した比較的新しい技術で、この分野においては日本が世界をリードしています。“汚れを吸着する”、“植物の成長を促進する”といった、さまざまな効果的作用を世界中が注目しています。しかし、実のところマイクロバブルの効果発現のメカニズムそのものはいまだ解明されていません。
そこで、私たち江頭研究室では、マイクロバブルの効果的な生成装置の開発に取り組んでいます。未来を見据え、開発だけに留まらず、技術の応用分野の開拓も目指しています。

微細な気泡を効率的に発生させる
究極のノズルの設計に挑む

マイクロバブルのように微細な気泡は、液体に接する表面積が大きくなります。そして、小さい気泡ほど浮力も小さく、長時間にわたって液中に留まることができるため、水中に空気を多く含むという性質があります。
マイクロバブルの生成方法は、高圧で水に空気を溶解させる「加圧溶解式」と、私たちが取り組んでいる「ノズル噴射式」の2種類。ノズル噴射式とは、水と空気を細いノズルの中で混合させ、乱流によるせん断力を利用して気泡を微細化して発生させる方法です。現在はこのノズルを用いて、より微細な気泡を効率的に生成するためのノズルの設計および改良を、研究室の学生自らが行っています。
現在「気泡を含んだ水中における音速」の現象を頼りにノズルの改良を行っています。通常、音速とは空気中だと毎秒340メートルで、水中になると毎秒1500メートルと格段に速くなります。しかし、同じ水中でもそこに気泡が加わると毎秒数10メートルとかなり遅くなります。この現象から、ノズルからマイクロバブルを噴射する際、超音速(音速よりも速い速度のこと)で、つまり数10メートル毎秒で噴射できるとノズル内に圧力のとびが生じ、衝撃波が発生します。すると、ノズルから出る気泡をその衝撃波でつぶせば、さらに細かい泡が出るのではないか、いう仮説を立てて実験を行っている最中です。

“池の水ぜんぶキレイに!?”
「おとめが池」の水質を浄化

マイクロバブルの応用実験として池班、農業班などに分かれ、実地調査を行っています。
農業班では、本学構内にある「おとめが池」にてマイクロバブルを用いた水質浄化実験を行いました。マイクロバブルを約3ヶ月間連続的に池の底層に注入し、水中の酸素濃度やpH値、汚濁物質の濃度などの変化をモニタリング。広い範囲にわたって水底の酸素不足を解消し、透明度が向上することが実験によってわかりました。
農業班においては、土、肥料、水の量など与える水の種類以外すべて同一条件のもと、さまざまな農作物の栽培に取り組みました。シソに関しては発芽率に大きな違いが現れ、キュウリに関しては通常の水を与えた場合よりも収穫量が1.6倍に。今後は、植物の発育にマイクロバブルの気泡が有効なのか、もしくは溶存酸素濃度の高さが有効なのか、実証実験を通してその先の謎を明らかにしたいと考えています。

マイクロバブルの効果の原理を
解明することで、未来は変わる

現在、“空気だけ”、“水だけ”としての理論は、流体力学として確立しています。よって、あらゆる事象もその式を使えば、机上でのシミュレーションが可能です。ただし、そこに気泡が入った状態、つまりは気体と液体の混じった“気液二相流”といわれる分野の基礎式は、いまだ確立されていません。
今後の江頭研究室の目標としては、ノズルのさらなる改良を重ね、より微細なマイクロバブルを効率的に発生させる理論を確立すること。マイクロバブルの効果の原理を突き止め、基礎式を導出できれば、実験費用も抑えられ、製品の開発費用も抑えられます。この水と空気だけのとてもクリーンな技術によって、農業や医療、水産業など世界のさまざまな課題解決に役立てられる日を願いながら、今日もこつこつと、研究を進めています。

1〜100マイクロメートル以下の超微細な泡を含むマイクロバブル水は、生成直後はこんなに白濁した状態に!気泡は驚くほど微細。 *1マイクロメートル=1000分の1ミリ
江頭研究室での実験で使用する、ノズル噴射式のマイクロバブル生成装置。ノズル内の流れを詳細に調べるために、圧力やボイド率 (空気含有割合)を測定するための孔が複数開けられている。
通常の水を潅水したシソ・マイクロバブル水を潅水したシソ・マイクロバブル水を潅水したシソと、通常の水を潅水したシソでは、発芽率に大きな違いが表れた。
自主性を尊重する江頭研究室では、学生自らアイデアを発案、実行。機械に精通している学生も多く、実験による検証を受けて装置の設計、改良を日々繰り返しています。
〜100マイクロメートル以下の超微細な泡を含むマイクロバブル水は、生成直後はこんなに白濁した状態に!気泡は驚くほど微細。 *1マイクロメートル=1000分の1ミリ
江頭研究室での実験で使用する、ノズル噴射式のマイクロバブル生成装置。ノズル内の流れを詳細に調べるために、圧力やボイド率 (空気含有割合)を測定するための孔が複数開けられている。
通常の水を潅水したシソ・マイクロバブル水を潅水したシソ・マイクロバブル水を潅水したシソと、通常の水を潅水したシソでは、発芽率に大きな違いが表れた。
自主性を尊重する江頭研究室では、学生自らアイデアを発案、実行。機械に精通している学生も多く、実験による検証を受けて装置の設計、改良を日々繰り返しています。