大学と放射線治療機の世界トップメーカーが提携。最先端の医療機器を駆使し、エキスパートを養成

高エネルギー放射線を用いた演習実験や、放射線治療装置を用いた研修会を実施

がん治療に不可欠にもかかわらず技術者不足が続く放射線治療分野

日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代。毎年がんで命を落とす人は約36万人に上り、これは品川区の全人口が毎年消失することに匹敵します。若い世代にとってもがんは決して遠い存在ではなく、いつ身近な人がり患するかわからない病気と言えるでしょう。
一方でがんの治療法は日々進歩しており、がんの部位や病巣、患者の状態などに合わせて、手術などによる外科療法、抗がん剤など薬物による化学療法、そして放射線治療による放射線療法を組み合わせた集学的療法で臨むことが一般的です。ところが、日本は欧米に比べて放射線治療の面で遅れを取っているのが現状です。
「その典型例が乳がん治療でしょう」と説明するのは、駒澤大学医療健康科学部教授の保科正夫先生です。「従来、日本では乳がんにり患すると、乳房全体を大きく切除する外科手術が当たり前に行われてきました。しかし、初期の乳がんの場合、病巣とその周囲を取り除く部分切除術を行い、その後に放射線治療を続けることで根治が可能です。これなら女性が乳房を失うこともなく、患者さんにとってどれほどストレス軽減になるか計り知れません。日本でこの乳房温存療法が一般的になったのはほんの20年ほど前のこと。さらに放射線治療の遅れは、放射線治療機器を扱える人材の慢性的な不足が背景にあります」

最新の実機がつねに供給される世界初の産学連携プロジェクト

そこで保科先生が中心となり、2018年3月に駒澤大学が開設したのが「駒澤大学-VARIAN放射線治療人材教育センター」です。米国のがん治療機器メーカー・バリアンメディカルシステムズ(以下、バリアン社)と駒澤大学が提携し、駒澤キャンパスに新築した「種月館」に、バリアン社の医療用直線加速器(リニアック)と放射線治療計画システム、放射線治療データ管理システムの実機を設置。学部生や大学院生が演習などでその原理や操作方法を実践的に学べるようになりました。学生がリニアックの実機に触れることができる教育機関は国内でも数えるほど。さらにメーカーがつねに最新の実機を導入するのは同センターのみで、世界初の産学連携プロジェクトといえます。メーカーとの交渉をリードした保科先生は、バリアン社を選んだ理由を次のように説明します。
「私は40数年間放射線治療に関わってきましたが、バリアン社の製品は世界でもっとも質が高く、安心して使えると感じています。バリアン社は1948年に米国スタンフォード大学の科学者グループが創業。1年目からマイクロ波発振管の開発に成功するなど当初から高い技術力があり、1960年代にはリニアックを開発して全世界へ広めた実績を持っています。そのバリアン社が“日本の放射線治療の進歩や技術者教育に役立つのなら”と最新機器の提供を約束したのですから、面子にかけても最先端の環境を整えるはずです」

臨床に出る前にあらゆる失敗を経験させ、学生の成長を促す

このプロジェクトにバリアン社からは多くの医療機器の投資がなされた。一方、駒澤大学は免振設計と分厚いコンクリートの壁に守られた「種月館」の地下1階にリニアック照射室を用意。学生は必要に応じて教室と照射室を行き来し、実用的な学びを重ねていくことになります。
同センターでは、他にもバーチャル放射線治療システム「VERT」を配置。これは放射線治療を「見える化」したもので、本物の患者のCT画像がリアルな3Dとなって大画面に映し出され、実際には目に見えない放射線が照射される様子を画像で確認できます。学生は3Dグラスをかけ、リニアックのリモコンを操作することで、どのように放射線が患者の患部に照射されるのか、またどのような方向や強度が最適なのかを視覚的に体験し、治療をシミュレーションすることが可能です。
「このバーチャルシステムを使うと、臨床で診療放射線技師が行う全ての行為を経験することができます。ここでの目的は、学生に思い切り失敗をしてもらうこと。就職して臨床の現場に立つと失敗は許されません。ですから“学生のうちに失敗を総ざらいせよ”と、いつも伝えています。失敗から学ぶことは本当に多い。現場で活躍できる人というのは、失敗事例をより多く持っている人なんですよ」

診療放射線技師の業務には未知の原野が広がっている

医療健康科学部診療放射線技術科学科の卒業生は、その大多数が国家資格「診療放射線技師」を取得し、国公立病院や大学病院などの大規模病院に就職します。一般的に人々が診療放射線技師と聞いて思い浮かべるのは、「X線撮影を担当する技術者」でしょう。しかし、実のところ診療放射線技師が対象とする業務はX線撮影だけではなく、CT撮影、MRI撮影、消化管造影検査、マンモグラフィー、そして放射線治療や核医学検査など非常に多岐に渡り、「未知の原野が広がっている分野」だと保科先生は力説します。
「例えばMRI撮影では放射線を使いませんが、撮影で得た画像の処理を担当するのは診療放射線技師です。画像の重要な箇所を強調したり浮き上がらせたりすることで、医師が見たときに絶対的にわかりやすくするのは、診療放射線技師の技量なんですよ。現在、診療放射線技師の活躍の場はさまざまな分野に分かれており、それぞれに特化した技術が必要です。これはつまり、1つの分野が自分に合わな
くても、別の分野への方向転換が容易で、自分が好きな分野を見つけやすいということ。好きな分野で知識と技術を発揮できれば、その仕事を一生続けたいと思うはずです」

診療技術系と画像情報系のコース制で 専門性を深める独自のカリキュラム

駒澤大学診療放射線技術科学科では、多様化する診療放射線科学領域に対応するため、3年次より診療技術系に重点を置いたコースと画像情報系を主にしたコースに分かれるコース制を採用。これは同学ならではのカリキュラムで、専門性の高い科目を体系的に配置しています。その結果、4年次には卒業研究と国家試験対策に集中でき、大学院への進学実績も毎年10名前後に上ります。
入学したばかりの1年次には解剖学、放射線物理学、電気工学など医学・理工学系の基礎科目を受講し、放射線を安全に取り扱うための基礎教育を徹底。実験や演習も豊富で、その都度レポート提出が求められるため、文系学部の学生よりも勉学で多忙な日々を送ることになります。基礎を固める一方、徐々に演習でX線関連の機械に触れはじめ、やがてリニアックを利用した演習も履修できるようになります。
「基礎科目をひととおり学び終え、測定機器を扱うことで放射線が人体の中でどのように拡がり、どのように減弱するのか理解できるまでにおよそ3年弱。その間に自分が好きな分野が見えてくるはずです」

上田秋成の俳諧研究のための資料整備と基礎的研究

上田秋成との出会いを契機に、日本近世小説の研究者を目指す

近衞典子先生が研究しているのは、日本近世期の小説です。中でも、悪霊やもののけが登場する短編をまとめた『雨月物語』で知られる江戸時代の小説家・上田秋成の研究に力を注いでいます。

大学に入学した当初、近衞先生は「外国の人に日本文化を教える仕事に就きたい」と考えていたそうです。その気持ちに変化をもたらしたのが秋成との出会いでした。近衞先生の恩師で、江戸時代の小説家・井原西鶴を専門に研究していた教授が、授業で何度か秋成を話題にしたのです。特に秋成とその妻のことに触れたエピソードは、強く近衞先生の胸に残りました。

「妻が亡くなった後、秋成は彼女が書いた小説を発見します。秋成はそれを清書してお寺に奉納したのですが、そもそも江戸時代といえば、多くの女性は文字を知らない時代です。しかも秋成の妻は農家の出身でした。『秋成は気難しい人間だといわれているが、実は秋成が奥さんに文字を教えたのかもしれない。時間があったら秋成を研究してみたいなあ』と言う教授の言葉に、等身大の江戸の人々の姿を知りたいと思いました」

秋成に関心を抱いた近衞先生は『雨月物語』と並ぶ秋成の代表作『春雨物語』を卒業論文で取り上げました。そこから、近衞先生は秋成作品をはじめとする日本近世小説の研究者としての道を歩み始めました。
近衞先生は、秋成が活躍した江戸期の文芸についても研究を進めました。江戸時代の特徴は文化の担い手が一般庶民にまで広がったことです。それをもたらしたのは印刷技術の発達です。本を一冊ずつ手書きで写すという作業が不要となり、大量出版の時代が誕生しました。それによって、“笑い”を真髄とする庶民文化が、興隆を迎えたのです。

「江戸時代に『源氏物語』や『古今和歌集』などといった、いわゆる古典を研究する国学が成立しました。その一方で、“古典を笑いのめそう”という流れも生まれ、数多くのパロディー作品が書かれました。秋成もその一人で、『伊勢物語』研究の傍ら、そのパロディーである『癇癖談(くせものがたり)』という作品を書いています。このように、真面目な学問と古典を踏まえて遊ぼうという世界が、混在・共存しているのが、江戸の文化なのです」

若旦那たちが熱中した俳諧に、江戸文化のリアリティーを垣間見る

小説家として知られる秋成は、同時に歌人としても有名です。しかし、秋成が残した作品は小説や和歌にとどまりません。
「多面的な貌(かたち)を有する秋成文学の全貌解明を踏まえて、江戸文化ならびに当時の庶民の生活を知ることで、近世文芸の本質に迫りたい」
その一環として現在、近衞先生は科研費を取得して、秋成の俳諧(はいかい)作品を読み解く研究に取り組んでいます。

「俳諧とは、江戸時代に栄えた日本独自の文学形式で、当初は『俳諧の連歌』とも言われました。和歌は一人で詠むものですが、連歌は一人が五七五の句を詠むと、別の一人が七七の句をつなげて詠むという具合に、何人かで詠み継いでいきます。俳諧の『諧』の字は、しゃれやユーモアを意味する『諧謔(かいぎゃく)』からきており、みやびな和歌と違い、即興性や機知、笑い、俗なるものを含んでいます。誰かが機知に富んだ句を詠むと、別の誰かが『うまいねっ』と反応する。江戸の庶民はそんな掛け合いを楽しんだのです」
俳諧は、商人たちのコミュニケーションの場でも詠まれました。秋成も俳諧に熱中した一人で、その研究の意義について、近衞先生は次のように説明します。

「秋成は、たとえば『しのぶ恋』のテーマで『おもひ草くすし(医師)は物をしらぬかな』というユーモアたっぷりの句を詠んだかと思えば、『さくらさくら散りて佳人の夢に入(い)る』というような非常に幻想的な句も詠んでいます。このように、秋成の句は幅広いのですが、その研究は少ないのが実情です。芭蕉とはまた違った趣のある秋成の俳諧を研究することで、江戸の文芸のリアリティーを多角的に探究できると考えています」

近衞先生は現在、科研費に採択された「上田秋成の俳諧研究のための資料整備と基礎的研究」というテーマで、他の研究者とともに秋成の俳諧の語釈、注解を重ねており、その研究が日本の文化の豊かさを示してくれることになるでしょう。

日本文化の継承・解読には、「くずし字」を読む技能が不可欠

一方、近衞先生は、小学生から高校生を対象とする日本近世文学会による「くずし字」を読むための出前授業に積極的に参加しています。明治以前の時代は普通の人がくずし字を読み書きしていたのですが、現在では国文学の研究者などの専門家を除くと、読める人はほとんどいません。
「くずし字が読めなくなると、明治以前の文化・文学を解読できなくなります」と、近衞先生はその状況に警鐘を鳴らします。これからの日本の文化を担うのは高校生など若い世代。近衞先生は、「国際化の時代だからこそ、自らの拠って立つ文化を知ることは大切。新しい出会いに期待しながら、好奇心と探究心を持って文学を楽しんでほしい」とエールを送ります。

『雨月物語』「夢応の鯉魚」の挿絵です。鯉に変身した僧があわや料理される!というところで夢から覚める。架蔵本には、欄外に「逃げろや逃げろ」などと江戸時代の人の落書きがあります。

秋成最初の小説『諸道聴耳世間猿』(後刷)の表紙見返し。「三番叟(さんばそう)」に見立てられた三匹の猿がかわいいでしょう?
江戸時代に建築された民家を訪れ当時の人々の暮らしぶりに触れる。

ゼミでは輪読を通じて文学作品に対する理解を深めていく。
『雨月物語』「夢応の鯉魚」の挿絵です。鯉に変身した僧があわや料理される!というところで夢から覚める。架蔵本には、欄外に「逃げろや逃げろ」などと江戸時代の人の落書きがあります。

秋成最初の小説『諸道聴耳世間猿』(後刷)の表紙見返し。「三番叟(さんばそう)」に見立てられた三匹の猿がかわいいでしょう?

江戸時代に建築された民家を訪れ当時の人々の暮らしぶりに触れる。

ゼミでは輪読を通じて文学作品に対する理解を深めていく。

高エネルギー放射線を用いた演習実験や、 放射線治療装置を用いた研修会を実施

がん治療に不可欠にもかかわらず
技術者不足が続く放射線治療分野

日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代。毎年がんで命を落とす人は約36万人に上り、これは品川区の全人口が毎年消失することに匹敵します。若い世代にとってもがんは決して遠い存在ではなく、いつ身近な人がり患するかわからない病気と言えるでしょう。
一方でがんの治療法は日々進歩しており、がんの部位や病巣、患者の状態などに合わせて、手術などによる外科療法、抗がん剤など薬物による化学療法、そして放射線治療による放射線療法を組み合わせた集学的療法で臨むことが一般的です。ところが、日本は欧米に比べて放射線治療の面で遅れを取っているのが現状です。
「その典型例が乳がん治療でしょう」と説明するのは、駒澤大学医療健康科学部教授の保科正夫先生です。「従来、日本では乳がんにり患すると、乳房全体を大きく切除する外科手術が当たり前に行われてきました。しかし、初期の乳がんの場合、病巣とその周囲を取り除く部分切除術を行い、その後に放射線治療を続けることで根治が可能です。これなら女性が乳房を失うこともなく、患者さんにとってどれほどストレス軽減になるか計り知れません。日本でこの乳房温存療法が一般的になったのはほんの20年ほど前のこと。さらに放射線治療の遅れは、放射線治療機器を扱える人材の慢性的な不足が背景にあります」

最新の実機がつねに供給される
世界初の産学連携プロジェクト

そこで保科先生が中心となり、2018年3月に駒澤大学が開設したのが「駒澤大学-VARIAN放射線治療人材教育センター」です。米国のがん治療機器メーカー・バリアン メディカル システムズ(以下、バリアン社)と駒澤大学が提携し、駒澤キャンパスに新築した「種月館」に、バリアン社の医療用直線加速器(リニアック)と放射線治療計画システム、放射線治療データ管理システムの実機を設置。学部生や大学院生が演習などでその原理や操作方法を実践的に学べるようになりました。学生がリニアックの実機に触れることができる教育機関は国内でも数えるほど。さらにメーカーがつねに最新の実機を導入するのは同センターのみで、世界初の産学連携プロジェクトといえます。メーカーとの交渉をリードした保科先生は、バリアン社を選んだ理由を次のように説明します。
「私は40数年間放射線治療に関わってきましたが、バリアン社の製品は世界でもっとも質が高く、安心して使えると感じています。バリアン社は1948年に米国スタンフォード大学の科学者グループが創業。1年目からマイクロ波発振管の開発に成功するなど当初から高い技術力があり、1960年代にはリニアックを開発して全世界へ広めた実績を持っています。そのバリアン社が“日本の放射線治療の進歩や技術者教育に役立つのならと”最新機器の提供を約束したのですから、面子にかけても最先端の環境を整えるはずです」

臨床に出る前にあらゆる失敗を
経験させ、学生の成長を促す

このプロジェクトにバリアン社からは多くの医療機器の投資がなされた。一方、駒澤大学は免振設計と分厚いコンクリートの壁に守られた「種月館」の地下1階にリニアック照射室を用意。学生は必要に応じて教室と照射室を行き来し、実用的な学びを重ねていくことになります。
同センターでは、他にもバーチャル放射線治療システム「VERT」を配置。これは放射線治療を「見える化」したもので、本物の患者のCT画像がリアルな3Dとなって大画面に映し出され、実際には目に見えない放射線が照射される様子を画像で確認できます。学生は3Dグラスをかけ、リニアックのリモコンを操作することで、どのように放射線が患者の患部に照射されるのか、またどのような方向や強度が最適なのかを視覚的に体験し、治療をシミュレーションすることが可能です。
「このバーチャルシステムを使うと、臨床で診療放射線技師が行う全ての行為を経験することができます。ここでの目的は、学生に思い切り失敗をしてもらうこと。就職して臨床の現場に立つと失敗は許されません。ですから“学生のうちに失敗を総ざらいせよ”と、いつも伝えています。失敗から学ぶことは本当に多い。現場で活躍できる人というのは、失敗事例をより多く持っている人なんですよ」

バーチャル放射線治療システム「VERT」が設置されているのは、国内で駒澤大学のみ(2018年5月現在)。学生はリアルな3D画像を見ながら、リニアックのリモコンを操作する。

診療放射線技師の業務には
未知の原野が広がっている

医療健康科学部診療放射線技術科学科の卒業生は、その大多数が国家資格「診療放射線技師」を取得し、国公立病院や大学病院などの大規模病院に就職します。一般的に人々が診療放射線技師と聞いて思い浮かべるのは、「X線撮影を担当する技術者」でしょう。しかし、実のところ診療放射線技師が対象とする業務はX線撮影だけではなく、CT撮影、MRI撮影、消化管造影検査、マンモグラフィー、そして放射線治療や核医学検査など非常に多岐に渡り、「未知の原野が広がっている分野」だと保科先生は力説します。
「例えばMRI撮影では放射線を使いませんが、撮影で得た画像の処理を担当するのは診療放射線技師です。画像の重要な箇所を強調したり浮き上がらせたりすることで、医師が見たときに絶対的にわかりやすくするのは、診療放射線技師の技量なんですよ。現在、診療放射線技師の活躍の場はさまざまな分野に分かれており、それぞれに特化した技術が必要です。これはつまり、1つの分野が自分に合わなくても、別の分野への方向転換が容易で、自分が好きな分野を見つけやすいということ。好きな分野で知識と技術を発揮できれば、その仕事を一生続けたいと思うはずです」

診療技術系と画像情報系のコース制で
専門性を深める独自のカリキュラム

駒澤大学診療放射線技術科学科では、多様化する診療放射線科学領域に対応するため、3年次より診療技術系に重点を置いたコースと画像情報系を主にしたコースに分かれるコース制を採用。これは同学ならではのカリキュラムで、専門性の高い科目を体系的に配置しています。その結果、4年次には卒業研究と国家試験対策に集中でき、大学院への進学実績も毎年10名前後に上ります。
入学したばかりの1年次には解剖学、放射線物理学、電気工学など医学・理工学系の基礎科目を受講し、放射線を安全に取り扱うための基礎教育を徹底。実験や演習も豊富で、その都度レポート提出が求められるため、文系学部の学生よりも勉学で多忙な日々を送ることになります。基礎を固める一方、徐々に演習でX線関連の機械に触れはじめ、やがてリニアックを利用した演習も履修できるようになります。
「基礎科目をひととおり学び終え、測定機器を扱うことで放射線が人体の中でどのように拡がり、どのように減弱するのか理解できるまでにおよそ3年弱。その間に自分が好きな分野が見えてくるはずです」

学生は臨床前に多くのシミュレーションを繰り返し経験する。

学生と研究者やエンジニアが集う
日本の放射線治療の拠点へ

恵まれた環境を利用して国家資格を取得し、診療放射線の専門職として働きはじめても、大学とのつながりは続きます。同センターは学生のみならず、全国の医療従事者に門戸を開いており、バリアン社の最先端の医療機器を使ったトレーニングを受けられる場でもあるからです。
保科先生の目標は、「このセンターを日本の放射線治療の“サロン”にすること」。近世ヨーロッパで資産家が自身の邸宅で開催するサロンが科学や芸術の発展の場となったように、同センターに診療放射線の専門家やメーカーのエンジニアや学生が集って情報交換し、互いに刺激し合うことで技術の発展に役立てたいという構想です。
「実はこれは駒澤大学だからできることなんです。あらゆる人と情報が集まる東京に位置し、しかも交通至便な立地にある。さらに私立大学ならではの研究や設備の自由度も見逃せません。高校生の皆さんにはぜひ、この恵まれた環境を活かして放射線治療のエキスパートとなり、病で苦しむ患者さんに貢献できる人材になっていただきたいですね」

全学を挙げた「禅」研究により、現代社会に新たな提言を! 駒澤大学の「禅ブランディング事業」

1592年、曹洞宗の古刹「吉祥寺」内に作られた「学林」を起源とする駒澤大学。平成28年度文部科学省の私立大学研究ブランディング事業では、「『禅と心』研究の学際的国際的拠点づくりとブランド化事業」を掲げ、採択を受けました。禅の研究を通じて、現代人が抱える「心」の問題に取り組み、新たな提言を行うこと。禅を超領域的に研究することで新たな視座を獲得すること。そして坐禅が身心に与える影響を科学的に検証することを目標に取り組んでいます。

なぜ今、「禅」が求められるのか

――禅ブランディング事業について、具体的にどのように進めておられますか?

角田「曹洞宗の歴史と思想、坐禅作法を研究する『曹洞禅とその源流研究チーム』。文学や芸能、美術などへの禅の影響を研究する『禅の受容と展開研究チーム』。坐禅が人の体と心にもたらす影響・効果を研究する『禅による人の体と心研究チーム』。禅が現代社会に与える影響を研究する『禅と現代社会研究チーム』。以上4つの研究チームに全学部の教員数十名が分かれて所属し、それぞれに研究を推進。その成果を『世界発信チーム』がWEBサイトなどを中心に発信しています。」

――まさに全学を挙げての取り組みであることが伝わってきます。それにしても古くから存在する「禅」が、21世紀の社会で求められている理由とは何でしょうか?

角田「私は普段から仏教学部で曹洞宗に関する研究に携わっており、『曹洞禅とその源流研究チーム』のリーダーを務めています。近年、改めて禅が社会の注目を集めているのは、ストレス社会の中で人々のストレスを低減する方法が強く求められているためだと思います。例えば、ストレス対処法として知られるマインドフルネスは、1970年代の米国で曹洞宗の坐禅にヒントを得て生まれました。また、米国アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏は若い頃にインドで仏教に出会い、その後米国で禅センターに通い、本学卒業生である乙川弘文老師に師事したことが有名です」

各務「私はグローバル・メディア・スタディーズ学部でグローバル企業の経営戦略について研究していますが、情報過多・急激な技術革新・急速なグローバル化など、働く人の集中力が散漫になる環境が年々強まっていると感じます。グーグルやインテルなどシリコンバレーの名だたる企業が競ってマインドフルネスを採り入れたのも、オフィスの中で精神集中する時間をわずかでも持つことで、働く意欲やアイデアが生まれやすいことに気付いたからだと思います」

名古「私は普段は医療健康科学部で診療放射線技師の養成に携わっており、『禅による人の体と心研究チーム』のリーダーを務めています。坐禅の効果を科学的に捉える方法には脳波測定やMRI(磁気共鳴画像法)があり、脳波測定に関しては本学の文学部心理学科の先行研究があります」

角田「実は私も以前に坐禅中の脳波測定をしてもらったのですが、体によいα波が多く検出されました。精神を安定させる脳内物質セロトニンの増加も確認され、これが薬に頼らないうつ病治療につながる可能性もあると医学研究者からお聞きしています。従来、坐禅の効果は体験的に語られることが多かったのですが、科学的に立証できる時代になってきました」

ロジックの通用しない
場面でこそ「坐禅」が活きる

――一般的に、「禅」と言われて思い浮かぶのは坐禅ではないでしょうか。改めて坐禅の意義
について教えていただけますか?

角田「ここまで禅のストレス低減効果についてお話してきましたが、本来、坐禅は“目的を持たずに坐る”“無条件にただ坐る”ことに意義があるのですよ」

各務「そこを理解していただければ、多くのビジネスパーソンが救われますね(笑)。常にロジックを組み立てて対応するのがビジネスですが、世の中にはロジックだけで対応できないこともたくさん存在します。そんなとき、坐禅を通してビジネスを忘れることで、かえって次の展開が見えることがあるのかもしれません。“目的を持たない時間に価値を見出した”とも考えられますね。禅がシリコンバレーの人々に支持された理由はこの辺りにあるのではないでしょうか」

特設サイトでの発信や各種イベントを精力的に展開

――ブランディング事業の成果について教えてください。

各務「研究成果の発表の場としてWEBサイトhttps://www.komazawa-u.ac.jp/zen-branding/を設け、研究活動が進むたびにコンテンツを順次アップしています。2018年度だけでも『禅の国際化』講演会、『禅の歴史』連続講座、『禅と心』研究シンポジウム、そして坐禅会など、さまざまなイベントを精力的に開催し、ポスター、インスタグラムなどで告知しています」

角田「ブランディング事業のキャッチコピーは“ZEN,KOMAZAWA,1592”。この活動を本学の学生はもちろん、広く世の中に知っていただきたいです。仏教学部の学生はみな知っていることですが、本学が曹洞宗と深く関わる大学であることは意外に知られていません。ちなみに全学部で1年次必修科目となっている『仏教と人間』では、仏教と禅の基礎的な知識を学ぶことができます。これを受講すれば、ジョブズ氏があれほど禅に傾倒した理由もおわかりいただけると思います」

生涯を通じて糧となる「禅」の学び

――高校生に向けてメッセージをお願いします。

角田「駒澤大学は国内最大級の仏教研究・教育機関です。図書館の蔵書は約120万冊に上り、仏教書のコレクションは全国有数。禅関連の蔵書数は世界一でしょう。さらに仏教関連だけで24名の教員が在籍するのも本学ならでは。人生には一本貫いた“筋”が必要です。仏教を学ぶことで“筋”が身に付くはずです」

名古「私の学部の学生はみな、診療放射線技師を目指しています。診療放射線技師の養成校は全国に51校ありますが、仏教と禅の心を学べるのは駒澤大学だけ。私自身も本学の出身で、卒業後に長く大学病院に勤務しました。医療の現場には心も体も弱った方がたくさんおられます。そんな方々と向き合うとき、大学時代に受けた“心の教育”がとても役に立ちました」

各務「私の学部には将来グローバルに活躍したい高校生が多く入学して来られます。グローバル社会とは自分の価値観が通用しない多様な相手とコミュニケーションしていく社会。当然ストレスが増えますが、禅の考え方が習慣化すれば乗り越えることができるかもしれません。さらに日本人のオリジナリティとして禅を理解することで、多様化する社会の中で確かなアイデンティティを持ち続けることができるはずです」