大学と放射線治療機の世界トップメーカーが提携。最先端の医療機器を駆使し、エキスパートを養成

高エネルギー放射線を用いた演習実験や、放射線治療装置を用いた研修会を実施

がん治療に不可欠にもかかわらず技術者不足が続く放射線治療分野

日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代。毎年がんで命を落とす人は約36万人に上り、これは品川区の全人口が毎年消失することに匹敵します。若い世代にとってもがんは決して遠い存在ではなく、いつ身近な人がり患するかわからない病気と言えるでしょう。
一方でがんの治療法は日々進歩しており、がんの部位や病巣、患者の状態などに合わせて、手術などによる外科療法、抗がん剤など薬物による化学療法、そして放射線治療による放射線療法を組み合わせた集学的療法で臨むことが一般的です。ところが、日本は欧米に比べて放射線治療の面で遅れを取っているのが現状です。
「その典型例が乳がん治療でしょう」と説明するのは、駒澤大学医療健康科学部教授の保科正夫先生です。「従来、日本では乳がんにり患すると、乳房全体を大きく切除する外科手術が当たり前に行われてきました。しかし、初期の乳がんの場合、病巣とその周囲を取り除く部分切除術を行い、その後に放射線治療を続けることで根治が可能です。これなら女性が乳房を失うこともなく、患者さんにとってどれほどストレス軽減になるか計り知れません。日本でこの乳房温存療法が一般的になったのはほんの20年ほど前のこと。さらに放射線治療の遅れは、放射線治療機器を扱える人材の慢性的な不足が背景にあります」

最新の実機がつねに供給される世界初の産学連携プロジェクト

そこで保科先生が中心となり、2018年3月に駒澤大学が開設したのが「駒澤大学-VARIAN放射線治療人材教育センター」です。米国のがん治療機器メーカー・バリアンメディカルシステムズ(以下、バリアン社)と駒澤大学が提携し、駒澤キャンパスに新築した「種月館」に、バリアン社の医療用直線加速器(リニアック)と放射線治療計画システム、放射線治療データ管理システムの実機を設置。学部生や大学院生が演習などでその原理や操作方法を実践的に学べるようになりました。学生がリニアックの実機に触れることができる教育機関は国内でも数えるほど。さらにメーカーがつねに最新の実機を導入するのは同センターのみで、世界初の産学連携プロジェクトといえます。メーカーとの交渉をリードした保科先生は、バリアン社を選んだ理由を次のように説明します。
「私は40数年間放射線治療に関わってきましたが、バリアン社の製品は世界でもっとも質が高く、安心して使えると感じています。バリアン社は1948年に米国スタンフォード大学の科学者グループが創業。1年目からマイクロ波発振管の開発に成功するなど当初から高い技術力があり、1960年代にはリニアックを開発して全世界へ広めた実績を持っています。そのバリアン社が“日本の放射線治療の進歩や技術者教育に役立つのなら”と最新機器の提供を約束したのですから、面子にかけても最先端の環境を整えるはずです」

臨床に出る前にあらゆる失敗を経験させ、学生の成長を促す

このプロジェクトにバリアン社からは多くの医療機器の投資がなされた。一方、駒澤大学は免振設計と分厚いコンクリートの壁に守られた「種月館」の地下1階にリニアック照射室を用意。学生は必要に応じて教室と照射室を行き来し、実用的な学びを重ねていくことになります。
同センターでは、他にもバーチャル放射線治療システム「VERT」を配置。これは放射線治療を「見える化」したもので、本物の患者のCT画像がリアルな3Dとなって大画面に映し出され、実際には目に見えない放射線が照射される様子を画像で確認できます。学生は3Dグラスをかけ、リニアックのリモコンを操作することで、どのように放射線が患者の患部に照射されるのか、またどのような方向や強度が最適なのかを視覚的に体験し、治療をシミュレーションすることが可能です。
「このバーチャルシステムを使うと、臨床で診療放射線技師が行う全ての行為を経験することができます。ここでの目的は、学生に思い切り失敗をしてもらうこと。就職して臨床の現場に立つと失敗は許されません。ですから“学生のうちに失敗を総ざらいせよ”と、いつも伝えています。失敗から学ぶことは本当に多い。現場で活躍できる人というのは、失敗事例をより多く持っている人なんですよ」

診療放射線技師の業務には未知の原野が広がっている

医療健康科学部診療放射線技術科学科の卒業生は、その大多数が国家資格「診療放射線技師」を取得し、国公立病院や大学病院などの大規模病院に就職します。一般的に人々が診療放射線技師と聞いて思い浮かべるのは、「X線撮影を担当する技術者」でしょう。しかし、実のところ診療放射線技師が対象とする業務はX線撮影だけではなく、CT撮影、MRI撮影、消化管造影検査、マンモグラフィー、そして放射線治療や核医学検査など非常に多岐に渡り、「未知の原野が広がっている分野」だと保科先生は力説します。
「例えばMRI撮影では放射線を使いませんが、撮影で得た画像の処理を担当するのは診療放射線技師です。画像の重要な箇所を強調したり浮き上がらせたりすることで、医師が見たときに絶対的にわかりやすくするのは、診療放射線技師の技量なんですよ。現在、診療放射線技師の活躍の場はさまざまな分野に分かれており、それぞれに特化した技術が必要です。これはつまり、1つの分野が自分に合わな
くても、別の分野への方向転換が容易で、自分が好きな分野を見つけやすいということ。好きな分野で知識と技術を発揮できれば、その仕事を一生続けたいと思うはずです」

診療技術系と画像情報系のコース制で 専門性を深める独自のカリキュラム

駒澤大学診療放射線技術科学科では、多様化する診療放射線科学領域に対応するため、3年次より診療技術系に重点を置いたコースと画像情報系を主にしたコースに分かれるコース制を採用。これは同学ならではのカリキュラムで、専門性の高い科目を体系的に配置しています。その結果、4年次には卒業研究と国家試験対策に集中でき、大学院への進学実績も毎年10名前後に上ります。
入学したばかりの1年次には解剖学、放射線物理学、電気工学など医学・理工学系の基礎科目を受講し、放射線を安全に取り扱うための基礎教育を徹底。実験や演習も豊富で、その都度レポート提出が求められるため、文系学部の学生よりも勉学で多忙な日々を送ることになります。基礎を固める一方、徐々に演習でX線関連の機械に触れはじめ、やがてリニアックを利用した演習も履修できるようになります。
「基礎科目をひととおり学び終え、測定機器を扱うことで放射線が人体の中でどのように拡がり、どのように減弱するのか理解できるまでにおよそ3年弱。その間に自分が好きな分野が見えてくるはずです」

上田秋成の俳諧研究のための資料整備と基礎的研究

上田秋成との出会いを契機に、日本近世小説の研究者を目指す

近衞典子先生が研究しているのは、日本近世期の小説です。中でも、悪霊やもののけが登場する短編をまとめた『雨月物語』で知られる江戸時代の小説家・上田秋成の研究に力を注いでいます。

大学に入学した当初、近衞先生は「外国の人に日本文化を教える仕事に就きたい」と考えていたそうです。その気持ちに変化をもたらしたのが秋成との出会いでした。近衞先生の恩師で、江戸時代の小説家・井原西鶴を専門に研究していた教授が、授業で何度か秋成を話題にしたのです。特に秋成とその妻のことに触れたエピソードは、強く近衞先生の胸に残りました。

「妻が亡くなった後、秋成は彼女が書いた小説を発見します。秋成はそれを清書してお寺に奉納したのですが、そもそも江戸時代といえば、多くの女性は文字を知らない時代です。しかも秋成の妻は農家の出身でした。『秋成は気難しい人間だといわれているが、実は秋成が奥さんに文字を教えたのかもしれない。時間があったら秋成を研究してみたいなあ』と言う教授の言葉に、等身大の江戸の人々の姿を知りたいと思いました」

秋成に関心を抱いた近衞先生は『雨月物語』と並ぶ秋成の代表作『春雨物語』を卒業論文で取り上げました。そこから、近衞先生は秋成作品をはじめとする日本近世小説の研究者としての道を歩み始めました。
近衞先生は、秋成が活躍した江戸期の文芸についても研究を進めました。江戸時代の特徴は文化の担い手が一般庶民にまで広がったことです。それをもたらしたのは印刷技術の発達です。本を一冊ずつ手書きで写すという作業が不要となり、大量出版の時代が誕生しました。それによって、“笑い”を真髄とする庶民文化が、興隆を迎えたのです。

「江戸時代に『源氏物語』や『古今和歌集』などといった、いわゆる古典を研究する国学が成立しました。その一方で、“古典を笑いのめそう”という流れも生まれ、数多くのパロディー作品が書かれました。秋成もその一人で、『伊勢物語』研究の傍ら、そのパロディーである『癇癖談(くせものがたり)』という作品を書いています。このように、真面目な学問と古典を踏まえて遊ぼうという世界が、混在・共存しているのが、江戸の文化なのです」

若旦那たちが熱中した俳諧に、江戸文化のリアリティーを垣間見る

小説家として知られる秋成は、同時に歌人としても有名です。しかし、秋成が残した作品は小説や和歌にとどまりません。
「多面的な貌(かたち)を有する秋成文学の全貌解明を踏まえて、江戸文化ならびに当時の庶民の生活を知ることで、近世文芸の本質に迫りたい」
その一環として現在、近衞先生は科研費を取得して、秋成の俳諧(はいかい)作品を読み解く研究に取り組んでいます。

「俳諧とは、江戸時代に栄えた日本独自の文学形式で、当初は『俳諧の連歌』とも言われました。和歌は一人で詠むものですが、連歌は一人が五七五の句を詠むと、別の一人が七七の句をつなげて詠むという具合に、何人かで詠み継いでいきます。俳諧の『諧』の字は、しゃれやユーモアを意味する『諧謔(かいぎゃく)』からきており、みやびな和歌と違い、即興性や機知、笑い、俗なるものを含んでいます。誰かが機知に富んだ句を詠むと、別の誰かが『うまいねっ』と反応する。江戸の庶民はそんな掛け合いを楽しんだのです」
俳諧は、商人たちのコミュニケーションの場でも詠まれました。秋成も俳諧に熱中した一人で、その研究の意義について、近衞先生は次のように説明します。

「秋成は、たとえば『しのぶ恋』のテーマで『おもひ草くすし(医師)は物をしらぬかな』というユーモアたっぷりの句を詠んだかと思えば、『さくらさくら散りて佳人の夢に入(い)る』というような非常に幻想的な句も詠んでいます。このように、秋成の句は幅広いのですが、その研究は少ないのが実情です。芭蕉とはまた違った趣のある秋成の俳諧を研究することで、江戸の文芸のリアリティーを多角的に探究できると考えています」

近衞先生は現在、科研費に採択された「上田秋成の俳諧研究のための資料整備と基礎的研究」というテーマで、他の研究者とともに秋成の俳諧の語釈、注解を重ねており、その研究が日本の文化の豊かさを示してくれることになるでしょう。

日本文化の継承・解読には、「くずし字」を読む技能が不可欠

一方、近衞先生は、小学生から高校生を対象とする日本近世文学会による「くずし字」を読むための出前授業に積極的に参加しています。明治以前の時代は普通の人がくずし字を読み書きしていたのですが、現在では国文学の研究者などの専門家を除くと、読める人はほとんどいません。
「くずし字が読めなくなると、明治以前の文化・文学を解読できなくなります」と、近衞先生はその状況に警鐘を鳴らします。これからの日本の文化を担うのは高校生など若い世代。近衞先生は、「国際化の時代だからこそ、自らの拠って立つ文化を知ることは大切。新しい出会いに期待しながら、好奇心と探究心を持って文学を楽しんでほしい」とエールを送ります。

『雨月物語』「夢応の鯉魚」の挿絵です。鯉に変身した僧があわや料理される!というところで夢から覚める。架蔵本には、欄外に「逃げろや逃げろ」などと江戸時代の人の落書きがあります。

秋成最初の小説『諸道聴耳世間猿』(後刷)の表紙見返し。「三番叟(さんばそう)」に見立てられた三匹の猿がかわいいでしょう?
江戸時代に建築された民家を訪れ当時の人々の暮らしぶりに触れる。

ゼミでは輪読を通じて文学作品に対する理解を深めていく。
『雨月物語』「夢応の鯉魚」の挿絵です。鯉に変身した僧があわや料理される!というところで夢から覚める。架蔵本には、欄外に「逃げろや逃げろ」などと江戸時代の人の落書きがあります。

秋成最初の小説『諸道聴耳世間猿』(後刷)の表紙見返し。「三番叟(さんばそう)」に見立てられた三匹の猿がかわいいでしょう?

江戸時代に建築された民家を訪れ当時の人々の暮らしぶりに触れる。

ゼミでは輪読を通じて文学作品に対する理解を深めていく。

好奇心と想像力を糧に宇宙へ、大空へ。
研究対象は宇宙の彼方の爆発現象。
理論・観測・実験から事象の本質を捉えよ。

宇宙でもっとも激しい爆発現象
「ガンマ線バースト」とは?

私の研究室では、高エネルギー宇宙物理学の理論研究および、観測・実験研究を行っています。
宇宙から地球へは、目に見える可視光だけでなく、目に見えない波長の電磁波や宇宙線、ニュートリノ、重力波が飛んで来ます。その中で、我々が研究しているのは、宇宙で最も劇的な爆発現象である「ガンマ線バースト」。電磁波の中で最も波長の短いガンマ線が1000分の1秒~1000秒という、ごく短時間に観測される現象で、実は、地球1000個分の質量エネルギーに相当するエネルギーを解放しています。
ガンマ線バーストは1960年代に発見されましたが、いまだにその正体は不明。100億光年以上離れた宇宙の彼方で起きることがわかっており、現在世界中で活発に研究されています。ほかに超新星残骸や中性子星、ブラックホールなどでも高エネルギー天体現象が発生し、これらの現象を研究する学問を「高エネルギー宇宙物理学」と総称します。

世界の名だたる
観測プロジェクトに参加

ガンマ線や重力波の観測には巨大かつ高コストな施設と膨大な人的資源が必要で、とてもひとつの大学で行えるものではありません。そこで私たちもグローバルプロジェクトに理論担当として参加。地上チェレンコフ望遠鏡(CTAによる超高エネルギーガンマ線観測)、大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」、ガンマ線観測衛星「フェルミ」などで得られた観測結果の理論解釈を行い、論文にまとめています。理論担当の研究者は物理的・数学的な計算から「こんな現象が見えるはず」と予測し、観測担当の研究者に伝えて、自分たちの理論を検証してもらうのですが、自分たちの科学的な「予言」が観測で確かめられれば自分たちの理論が証明されたことになります。これが理論研究の最大の醍醐味。世の中にはさまざまな学問が存在しますが、未来を予言できる学問など滅多にありません。

地上で天体現象を再現する「実験室宇宙物理学」

高エネルギー天体現象は地球から遠く離れた宇宙で起きるため、当然ながら現場まで行くことはできません。それならば、いっそのこと地上の実験施設で天体現象と同じ状況を創り出してはどうか。地上なら細かな条件まで手元でコントロールでき、天文観測とは桁違いに豊富なデータを得られるのではないか――そんな考えから始まった新しい学問分野が「実験室宇宙物理学」です。私の研究室では、6年前から大阪大学レーザー科学研究所と共同で大型レーザーを用いた衝撃波の生成実験を続けており、ガンマ線バーストや超新星残骸といった高エネルギー天体現象でカギとなる衝撃波での物理過程の解明にむけて、ようやく解決すべき課題が明確になりつつあるところです。実験では、学生が主体となって実験設備を設計・製作し、実験にも立ち会います。若い人の発想にはハッとさせられることが多く、今ではかなりの範囲を学生に任せています。学生が役割分担しながら実験の準備や遂行をする過程ではさまざまな議論があり、活発なコミュニケーションの輪が拡がります。そこで身につく論理的思考力や物事の本質を捉える力は、学生にとって生涯の財産となるはずです。

ブラックホール周囲の降着円盤から放出される相対論的 ジェットがガンマ線バーストを引き起こすと考えられている。
大阪大学レーザー科学研究所との共同実験に備えて、学生がCADソフトで実験設備を考案中。アルミニウムにレーザーを照射し、衝撃波を生み出す計画だ。

高エネルギー放射線を用いた演習実験や、 放射線治療装置を用いた研修会を実施

がん治療に不可欠にもかかわらず
技術者不足が続く放射線治療分野

日本人の2人に1人ががんになり、3人に1人ががんで亡くなる時代。毎年がんで命を落とす人は約36万人に上り、これは品川区の全人口が毎年消失することに匹敵します。若い世代にとってもがんは決して遠い存在ではなく、いつ身近な人がり患するかわからない病気と言えるでしょう。
一方でがんの治療法は日々進歩しており、がんの部位や病巣、患者の状態などに合わせて、手術などによる外科療法、抗がん剤など薬物による化学療法、そして放射線治療による放射線療法を組み合わせた集学的療法で臨むことが一般的です。ところが、日本は欧米に比べて放射線治療の面で遅れを取っているのが現状です。
「その典型例が乳がん治療でしょう」と説明するのは、駒澤大学医療健康科学部教授の保科正夫先生です。「従来、日本では乳がんにり患すると、乳房全体を大きく切除する外科手術が当たり前に行われてきました。しかし、初期の乳がんの場合、病巣とその周囲を取り除く部分切除術を行い、その後に放射線治療を続けることで根治が可能です。これなら女性が乳房を失うこともなく、患者さんにとってどれほどストレス軽減になるか計り知れません。日本でこの乳房温存療法が一般的になったのはほんの20年ほど前のこと。さらに放射線治療の遅れは、放射線治療機器を扱える人材の慢性的な不足が背景にあります」

最新の実機がつねに供給される
世界初の産学連携プロジェクト

そこで保科先生が中心となり、2018年3月に駒澤大学が開設したのが「駒澤大学-VARIAN放射線治療人材教育センター」です。米国のがん治療機器メーカー・バリアン メディカル システムズ(以下、バリアン社)と駒澤大学が提携し、駒澤キャンパスに新築した「種月館」に、バリアン社の医療用直線加速器(リニアック)と放射線治療計画システム、放射線治療データ管理システムの実機を設置。学部生や大学院生が演習などでその原理や操作方法を実践的に学べるようになりました。学生がリニアックの実機に触れることができる教育機関は国内でも数えるほど。さらにメーカーがつねに最新の実機を導入するのは同センターのみで、世界初の産学連携プロジェクトといえます。メーカーとの交渉をリードした保科先生は、バリアン社を選んだ理由を次のように説明します。
「私は40数年間放射線治療に関わってきましたが、バリアン社の製品は世界でもっとも質が高く、安心して使えると感じています。バリアン社は1948年に米国スタンフォード大学の科学者グループが創業。1年目からマイクロ波発振管の開発に成功するなど当初から高い技術力があり、1960年代にはリニアックを開発して全世界へ広めた実績を持っています。そのバリアン社が“日本の放射線治療の進歩や技術者教育に役立つのならと”最新機器の提供を約束したのですから、面子にかけても最先端の環境を整えるはずです」

臨床に出る前にあらゆる失敗を
経験させ、学生の成長を促す

このプロジェクトにバリアン社からは多くの医療機器の投資がなされた。一方、駒澤大学は免振設計と分厚いコンクリートの壁に守られた「種月館」の地下1階にリニアック照射室を用意。学生は必要に応じて教室と照射室を行き来し、実用的な学びを重ねていくことになります。
同センターでは、他にもバーチャル放射線治療システム「VERT」を配置。これは放射線治療を「見える化」したもので、本物の患者のCT画像がリアルな3Dとなって大画面に映し出され、実際には目に見えない放射線が照射される様子を画像で確認できます。学生は3Dグラスをかけ、リニアックのリモコンを操作することで、どのように放射線が患者の患部に照射されるのか、またどのような方向や強度が最適なのかを視覚的に体験し、治療をシミュレーションすることが可能です。
「このバーチャルシステムを使うと、臨床で診療放射線技師が行う全ての行為を経験することができます。ここでの目的は、学生に思い切り失敗をしてもらうこと。就職して臨床の現場に立つと失敗は許されません。ですから“学生のうちに失敗を総ざらいせよ”と、いつも伝えています。失敗から学ぶことは本当に多い。現場で活躍できる人というのは、失敗事例をより多く持っている人なんですよ」

バーチャル放射線治療システム「VERT」が設置されているのは、国内で駒澤大学のみ(2018年5月現在)。学生はリアルな3D画像を見ながら、リニアックのリモコンを操作する。

診療放射線技師の業務には
未知の原野が広がっている

医療健康科学部診療放射線技術科学科の卒業生は、その大多数が国家資格「診療放射線技師」を取得し、国公立病院や大学病院などの大規模病院に就職します。一般的に人々が診療放射線技師と聞いて思い浮かべるのは、「X線撮影を担当する技術者」でしょう。しかし、実のところ診療放射線技師が対象とする業務はX線撮影だけではなく、CT撮影、MRI撮影、消化管造影検査、マンモグラフィー、そして放射線治療や核医学検査など非常に多岐に渡り、「未知の原野が広がっている分野」だと保科先生は力説します。
「例えばMRI撮影では放射線を使いませんが、撮影で得た画像の処理を担当するのは診療放射線技師です。画像の重要な箇所を強調したり浮き上がらせたりすることで、医師が見たときに絶対的にわかりやすくするのは、診療放射線技師の技量なんですよ。現在、診療放射線技師の活躍の場はさまざまな分野に分かれており、それぞれに特化した技術が必要です。これはつまり、1つの分野が自分に合わなくても、別の分野への方向転換が容易で、自分が好きな分野を見つけやすいということ。好きな分野で知識と技術を発揮できれば、その仕事を一生続けたいと思うはずです」

診療技術系と画像情報系のコース制で
専門性を深める独自のカリキュラム

駒澤大学診療放射線技術科学科では、多様化する診療放射線科学領域に対応するため、3年次より診療技術系に重点を置いたコースと画像情報系を主にしたコースに分かれるコース制を採用。これは同学ならではのカリキュラムで、専門性の高い科目を体系的に配置しています。その結果、4年次には卒業研究と国家試験対策に集中でき、大学院への進学実績も毎年10名前後に上ります。
入学したばかりの1年次には解剖学、放射線物理学、電気工学など医学・理工学系の基礎科目を受講し、放射線を安全に取り扱うための基礎教育を徹底。実験や演習も豊富で、その都度レポート提出が求められるため、文系学部の学生よりも勉学で多忙な日々を送ることになります。基礎を固める一方、徐々に演習でX線関連の機械に触れはじめ、やがてリニアックを利用した演習も履修できるようになります。
「基礎科目をひととおり学び終え、測定機器を扱うことで放射線が人体の中でどのように拡がり、どのように減弱するのか理解できるまでにおよそ3年弱。その間に自分が好きな分野が見えてくるはずです」

学生は臨床前に多くのシミュレーションを繰り返し経験する。

学生と研究者やエンジニアが集う
日本の放射線治療の拠点へ

恵まれた環境を利用して国家資格を取得し、診療放射線の専門職として働きはじめても、大学とのつながりは続きます。同センターは学生のみならず、全国の医療従事者に門戸を開いており、バリアン社の最先端の医療機器を使ったトレーニングを受けられる場でもあるからです。
保科先生の目標は、「このセンターを日本の放射線治療の“サロン”にすること」。近世ヨーロッパで資産家が自身の邸宅で開催するサロンが科学や芸術の発展の場となったように、同センターに診療放射線の専門家やメーカーのエンジニアや学生が集って情報交換し、互いに刺激し合うことで技術の発展に役立てたいという構想です。
「実はこれは駒澤大学だからできることなんです。あらゆる人と情報が集まる東京に位置し、しかも交通至便な立地にある。さらに私立大学ならではの研究や設備の自由度も見逃せません。高校生の皆さんにはぜひ、この恵まれた環境を活かして放射線治療のエキスパートとなり、病で苦しむ患者さんに貢献できる人材になっていただきたいですね」

ビッグデータ時代を支えるクラウドサービスメンテナンス用のソフトウェアを開発

人々の行動や志向、社会で機能するシステムや機器、世界中の経済活動や自然界の現象まで、情報技術の発達により、いまや世の中のあらゆるものがデータ化されています。それら「ビッグデータ」と呼ばれる巨大で複雑なデータは、人々の行動など機械的に解析できなかったものを解析して予測し、これまでにない答えを導き出して新しい社会を生み出す起爆剤になるとされています。しかし、ビッグデータが巨大で複雑なため、その管理や解析の方法はまだ開発の途中。そんな中で東京都市大学の田村慶信先生が開発したのが、ビッグデータを管理する「クラウドサービス」の最適なメンテナンスを実現するソフトウェアです。
「ビッグデータはセキュリティ等の面から、誰もが自由に使用し、改善改良することのできるオープンソースソフトウェアで構築されたクラウドサービスで管理するのが一般的になってきました。しかしクラウドサービスは24時間稼働で計画的なメンテナンスができず、その規模の大きさから、障害が発生すれば世界規模のトラブルに波及する危うさを秘めています。ビッグデータの収集や解析といった技術がさらに進化していくには、そのインフラとなるクラウドサービスの進化も欠かせないものとなるのです」

メンテナンス実施の最適なタイミングを検出。
次代の技術発展のためにインフラも進化する。

クラウドでのデータ保管とは、たとえばスマホやパソコンではなくネットワーク上にデータを保管するというもの。その特性上、クラウドサービスは稼働直後にノイズが多く発生してしまい、このタイミングでメンテナンスを行うと、バグの発生リスクが上がり、その対策のためにメンテナンスにかかる時間と費用が上がってしまいます。この問題を解決するために田村先生が開発したソフトウェアは、クラウドサービス上のノイズ等を解析し、時間と費用が最も少なくて済むメンテナンスのタイミングを検出する機能を備えているのです。

「このソフトは今後さらなる検証を行って信頼性を高め、社会での導入を進めることが目標です。またメンテナンスの時期を測るだけでなく、サービスの稼働率を算出する機能の開発も並行して進めています」と語る田村先生ですが、さらなる将来には、クラウドサービス自身が稼働状況や管理データを深層学習し、自分自身を自動修復するシステムの開発をめざしているという。これが完成すれば、これまで多くの人員を必要としてきたメンテナンスは完全に自動化。ネットワーク上のサービスが自分自身のことを理解し、問題を発見し、保守管理するという、SFのような未来が実現することとなります。


縦軸はコスト、横軸に時間を示した開発されたソフトウェアの画面。線の乱れは、稼働直後のノイズを表している。

TOPICS

理工学部は、現・工学部の6学科と現・知識工学部の自然科学科で構成される学部です。近年需要の増している工学の分野と自然科学の連携を図り、より深い学びとものづくりの素地を育てます。
・機械工学科
・機械システム工学科
・電気電子通信工学科
・医用工学科
・エネルギー化学科
・原子力安全工学科
・自然科学科NEW
(現:知識工学部 自然科学科)

建築都市デザイン学部は、より建築・都市開発に特化した学びを推進するために、工学部から独立して新設される学部です。よりデザイン性を求められる近年の建築ニーズに応えるために、建築工学とデザイン双方の視点を持つ人材を育成します。
・建築学科NEW
(現:工学部 建築学科)
・都市工学科NEW
(現:工学部 都市工学科)

情報工学部は、現・知識工学部から2学科を引き継ぐ形で設立される、情報・ITを扱う分野に特化した学部です。近年急増しているAI・ディープラーニング、データサイエンティストなどの需要に応えられる、これからの高度情報化社会に求められる人材を育てます。
・情報科学科
・知能情報工学科

理工学部は、現・工学部の6学科と現・知識工学部の自然科学科で構成される学部です。近年需要の増している工学の分野と自然科学の連携を図り、より深い学びとものづくりの素地を育てます。
・機械工学科
・機械システム工学科
・電気電子通信工学科
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建築都市デザイン学部は、より建築・都市開発に特化した学びを推進するために、工学部から独立して新設される学部です。よりデザイン性を求められる近年の建築ニーズに応えるために、建築工学とデザイン双方の視点を持つ人材を育成します。
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情報工学部は、現・知識工学部から2学科を引き継ぐ形で設立される、情報・ITを扱う分野に特化した学部です。近年急増しているAI・ディープラーニング、データサイエンティストなどの需要に応えられる、これからの高度情報化社会に求められる人材を育てます。
・情報科学科
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大学の根幹となる工学部を改編し新時代の学びを創出

東京都市大学では2020年4月より、創立以来、長きにわたり大学の根幹を担ってきた「工学部」を改編し、「理工学部」への名称変更と「建築都市デザイン学部」を新設。合わせて2007年に開設した「知識工学部」を「情報工学部」に名称変更します。学部名称と学びのフィールドをより明確にするとともに、大学と大学院の連携体制をより強固にすることが狙いです。

全学を挙げた「禅」研究により、現代社会に新たな提言を! 駒澤大学の「禅ブランディング事業」

1592年、曹洞宗の古刹「吉祥寺」内に作られた「学林」を起源とする駒澤大学。平成28年度文部科学省の私立大学研究ブランディング事業では、「『禅と心』研究の学際的国際的拠点づくりとブランド化事業」を掲げ、採択を受けました。禅の研究を通じて、現代人が抱える「心」の問題に取り組み、新たな提言を行うこと。禅を超領域的に研究することで新たな視座を獲得すること。そして坐禅が身心に与える影響を科学的に検証することを目標に取り組んでいます。

なぜ今、「禅」が求められるのか

――禅ブランディング事業について、具体的にどのように進めておられますか?

角田「曹洞宗の歴史と思想、坐禅作法を研究する『曹洞禅とその源流研究チーム』。文学や芸能、美術などへの禅の影響を研究する『禅の受容と展開研究チーム』。坐禅が人の体と心にもたらす影響・効果を研究する『禅による人の体と心研究チーム』。禅が現代社会に与える影響を研究する『禅と現代社会研究チーム』。以上4つの研究チームに全学部の教員数十名が分かれて所属し、それぞれに研究を推進。その成果を『世界発信チーム』がWEBサイトなどを中心に発信しています。」

――まさに全学を挙げての取り組みであることが伝わってきます。それにしても古くから存在する「禅」が、21世紀の社会で求められている理由とは何でしょうか?

角田「私は普段から仏教学部で曹洞宗に関する研究に携わっており、『曹洞禅とその源流研究チーム』のリーダーを務めています。近年、改めて禅が社会の注目を集めているのは、ストレス社会の中で人々のストレスを低減する方法が強く求められているためだと思います。例えば、ストレス対処法として知られるマインドフルネスは、1970年代の米国で曹洞宗の坐禅にヒントを得て生まれました。また、米国アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏は若い頃にインドで仏教に出会い、その後米国で禅センターに通い、本学卒業生である乙川弘文老師に師事したことが有名です」

各務「私はグローバル・メディア・スタディーズ学部でグローバル企業の経営戦略について研究していますが、情報過多・急激な技術革新・急速なグローバル化など、働く人の集中力が散漫になる環境が年々強まっていると感じます。グーグルやインテルなどシリコンバレーの名だたる企業が競ってマインドフルネスを採り入れたのも、オフィスの中で精神集中する時間をわずかでも持つことで、働く意欲やアイデアが生まれやすいことに気付いたからだと思います」

名古「私は普段は医療健康科学部で診療放射線技師の養成に携わっており、『禅による人の体と心研究チーム』のリーダーを務めています。坐禅の効果を科学的に捉える方法には脳波測定やMRI(磁気共鳴画像法)があり、脳波測定に関しては本学の文学部心理学科の先行研究があります」

角田「実は私も以前に坐禅中の脳波測定をしてもらったのですが、体によいα波が多く検出されました。精神を安定させる脳内物質セロトニンの増加も確認され、これが薬に頼らないうつ病治療につながる可能性もあると医学研究者からお聞きしています。従来、坐禅の効果は体験的に語られることが多かったのですが、科学的に立証できる時代になってきました」

ロジックの通用しない
場面でこそ「坐禅」が活きる

――一般的に、「禅」と言われて思い浮かぶのは坐禅ではないでしょうか。改めて坐禅の意義
について教えていただけますか?

角田「ここまで禅のストレス低減効果についてお話してきましたが、本来、坐禅は“目的を持たずに坐る”“無条件にただ坐る”ことに意義があるのですよ」

各務「そこを理解していただければ、多くのビジネスパーソンが救われますね(笑)。常にロジックを組み立てて対応するのがビジネスですが、世の中にはロジックだけで対応できないこともたくさん存在します。そんなとき、坐禅を通してビジネスを忘れることで、かえって次の展開が見えることがあるのかもしれません。“目的を持たない時間に価値を見出した”とも考えられますね。禅がシリコンバレーの人々に支持された理由はこの辺りにあるのではないでしょうか」

特設サイトでの発信や各種イベントを精力的に展開

――ブランディング事業の成果について教えてください。

各務「研究成果の発表の場としてWEBサイトhttps://www.komazawa-u.ac.jp/zen-branding/を設け、研究活動が進むたびにコンテンツを順次アップしています。2018年度だけでも『禅の国際化』講演会、『禅の歴史』連続講座、『禅と心』研究シンポジウム、そして坐禅会など、さまざまなイベントを精力的に開催し、ポスター、インスタグラムなどで告知しています」

角田「ブランディング事業のキャッチコピーは“ZEN,KOMAZAWA,1592”。この活動を本学の学生はもちろん、広く世の中に知っていただきたいです。仏教学部の学生はみな知っていることですが、本学が曹洞宗と深く関わる大学であることは意外に知られていません。ちなみに全学部で1年次必修科目となっている『仏教と人間』では、仏教と禅の基礎的な知識を学ぶことができます。これを受講すれば、ジョブズ氏があれほど禅に傾倒した理由もおわかりいただけると思います」

生涯を通じて糧となる「禅」の学び

――高校生に向けてメッセージをお願いします。

角田「駒澤大学は国内最大級の仏教研究・教育機関です。図書館の蔵書は約120万冊に上り、仏教書のコレクションは全国有数。禅関連の蔵書数は世界一でしょう。さらに仏教関連だけで24名の教員が在籍するのも本学ならでは。人生には一本貫いた“筋”が必要です。仏教を学ぶことで“筋”が身に付くはずです」

名古「私の学部の学生はみな、診療放射線技師を目指しています。診療放射線技師の養成校は全国に51校ありますが、仏教と禅の心を学べるのは駒澤大学だけ。私自身も本学の出身で、卒業後に長く大学病院に勤務しました。医療の現場には心も体も弱った方がたくさんおられます。そんな方々と向き合うとき、大学時代に受けた“心の教育”がとても役に立ちました」

各務「私の学部には将来グローバルに活躍したい高校生が多く入学して来られます。グローバル社会とは自分の価値観が通用しない多様な相手とコミュニケーションしていく社会。当然ストレスが増えますが、禅の考え方が習慣化すれば乗り越えることができるかもしれません。さらに日本人のオリジナリティとして禅を理解することで、多様化する社会の中で確かなアイデンティティを持ち続けることができるはずです」

世界中で全員参加の社会変革が始まっています。
SDGsの第一人者・平本督太郎センター長に聞く これからの世界を描き出すSDGsの目的と意義とは

環境破壊にともなう気候変動による災害の増加、解決の道のりが長く見出せずにいる貧困や人権の問題。世界中に存在する社会課題に対して、社会はこれまで個人~組織のレベルで向き合い、その取り組みを続けてきました。そんな中、近年、世界全体で力を合わせて取り組んでいこうという社会課題解決のための目標が設定されました。それが通称「SDGs」と呼ばれるSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)です。
「このままでは長期的に豊かな生活を続けていくことができないだろうという危機感が世界中に広がってきたこと。これが世界規模での目標が設定された背景にあります」
そう語るのは金沢工業大学SDGs推進センター平本督太郎センター長。民間企業で日本政府や国連機関と社会課題解決型ビジネスを推進するための政策立案に長く関わり、経済産業省「BOPビジネス支援センター運営協議会」委員、日本貿易振興機構「SDGs研究会」委員などを務めてきた、この分野の第一人者のひとりです。
「SDGsの前身として、2000年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)がありましたが、これは先進国が主導となり新興国や途上国向けの開発目標としてつくられたもの。しかし2008年に起きたリーマン・ショックをきっかけに先進国の経済が大きく後退、先進国が必ずしも安定して豊かであり続ける存在ではないことに世界中が気付き、各国の企業などは新興国や途上国の将来的な可能性に注目を広げることとなりました。また同じ頃は世界の首脳が集まっていた場がG7からG20として新興国等を加えた20か国に広がるなど、世界の構図は先進国を中心としたものから、新興国や途上国を中心としたものに変化していったのです」
こういった背景を受け、先進国だけが主導するのではなく新興国や途上国を巻き込みながら、世界全体で地球の将来について考えていこうという流れが生まれてきました。先進国や一部の有識者だけで決定するのではなく、オンライン上で約1000万人以上が参加するなど、世界中の人々がオープンな場所で議論しながらつくられたSDGsの特徴はここに理由があります。SDGsが設定する17の目標と169のターゲットは、言わば「世界のみんなでつくった目標」です。誰かが勝手に決めた目標、誰かに押し付けられるゴールではないから、近年、世界の全員が積極的に参加する形でSDGsに関する取り組みが活発に行われているのだ
と言えるでしょう。

「競争」から「共創」への転換が
SDGsを達成するカギとなる

「SDGsに沿った活動を行う中で重要視されているポイントがあります。それが『身近な問題と世界をつなげて、地球規模で物事を考えること』『将来的な目標から逆算して、いま何をすべきかを導き出すこと(バックキャスト)』『すべての人が利益を得られるよう誰一人取り残さないこと』という3点です。世界各国の政府、自治体、企業といったあらゆる組織がSDGsの定めた目標に向けて、2030年までに自分たちが達成すべきゴールを宣言し、いま何をすべきかを導き出して取り組みはじめています。これがまさにバックキャストによる活動の進め方です。そして『誰一人取り残さない』というポイントを実現する上で障壁となるもののひとつが、ある課題を解決することと引き換えに新たな課題が発生してしまう『トレードオフ』の問題です」
たとえばひとつの企業が「環境に優しい生産方法に変えよう」としても、その結果生産効率が下がってしまえば、その企業は環境保護と引き換えに自身の利益を失ってしまい、環境に優しい生産方法を継続することはできなくなってしまいます。このような「トレードオフ」の問題は社会課題に向き合う中で多く存在していますが、その障壁を乗り越えるために必要となるのがSDGsのめざしている、「競争社会」から共に創造する「共創社会」への転換、という考え方。ひとつの組織だけで取り組むのではなく、いくつもの組織で連携を取りながら、皆で新しい価値をつくったり、いまある価値を膨らませたりして、その価値を分配していく。ひとつの価値を競争して奪い合うのではなく、皆が共に価値を得られる状況をつくりながら社会課題の解決にもつなげていく。こういった「共創社会」をつくることがSDGsの進展に必要となるのです。
ただしSDGsは2030年の実現をめざした目標であり、すでに世界ではその先の目標に関する議論もはじまっています。そして次の目標期限となる2045年は、人工知能(AI)が人間の能力を超えるとされる「シンギュラリティ(技術的特異点)」を迎える年とされています。おそらく社会や産業の構造は劇的に変化を迎えることとなるでしょう。
「いま掲げられているSDGsの目標実現に向けて取り組むことはもちろん重要ですが、一方で、めざす目標を皆で決めていく世界の在り方、世界の人々が積極的に目標に向き合いながら皆がメリットを得られる取り組みの手法をつくることができれば、2030年以降に時代が大きく変化したとしても、世界は『共創』を大切にしながら引き続き幸せな世界をめざすことができるでしょう。先進国や一部の有識者が主導して策定したミレニアム開発目標(MDGs)から、世界の人々が皆で作成したSDGsの誕生、そしてその実現をめざしている現在までの過程は、こういった未来の世界の基盤をつくるための道のりだと言えるかもしれません」

「Sustainable Development Goals」SDGsとは――

SDGs(エス・ディー・ジーズ)とは、「Sustainable Development Goals」の略称で、「持続可能な開発目標」を意味します。これは人間だけでなく地球全体を未来にわたって永続的に繁栄させるために、私たちがどのように行動し考えればいいかを示したもので、大きな17の目標と、より細かく具体的な目標を示した169のターゲットから成り立っています。2015年にニューヨーク国連本部で開催された『国連持続可能な開発サミット』において、2016年から2030年までの国際目標として150以上の国連加盟国首脳の参加のもと制定され、2016年からスタートしました。地球上の誰一人取り残さない(leave no one behind)取り組みとして設定されており、途上国の貧困等を中心とした経済的課題だけでなく、環境保護や人権、教育、健康の問題など、世界が抱える現代の課題に対して、先進国・途上国といった国の垣根、政府・企業といった組織の垣根を越えて、世界の人々が手を取り合って取り組むものとされています。日本でも政府だけでなく、自治体や企業、学校など多くのフィールドで積極的な活動が進められています。
「競争社会」から「共創社会」へと移り変わる時代に
求められる新しい人財の姿とは

「共創社会」を実現するための
これからの教育の在り方とは

これからどのような世界にしていきたいのかを、世界中の人々と一緒に考えて、目標として決定する。その目標を実現するために、誰一人取り残すことなく皆がメリットを得られる方法をつくりだしていく。SDGsが掲げる「共創社会」とは、これまで理想とされながらも、なかなか実現に至らなかった新しい世界の姿です。そして、この世界を実現するために必要なのが、人々の考え方の転換と新しい知識・スキルの習得。そのために大切なのが「教育」であると、平本先生は話します。
「SDGsにおいても、何も考えずに目標実現をめざすだけでは活動は長続きしません。なぜこの目標をめざすのか?という理由を理解し、そこに納得していなければ人々は積極的に活動しません。日本でも2020年から学習指導要領が変更され、SDGsの要素が教育の中に盛り込まれることとなりましたが、すでに諸外国ではこのような『なぜ』を大切にして社会の物事に疑問を持ち、問題の本質を見極める素養を育む教育が進められています。なぜ社会課題が生まれているのかを知り、なぜ問題解決をする必要があるかを考え、その『なぜ』を多くの人に理解・共感してもらうことで社会を巻き込んだ大きな活動を実現することができる。『共創社会』を実現するには、このような能力を身につけることが必要となってくるでしょう」
その教育方法のひとつとして挙げられるのが、生徒自身が学びたいこと見つけ、生徒自身で教材を制作して、自分たちで学びながら、生徒同士で教え合うというもの。平本先生は小・中学校などの教育現場と話をしながら、新しい教育方法の確立にも注力しています。
「たとえばそのひとつにゲームを使った方法があります。学校に行ってずっとゲームをしていれば能力が伸びる、となれば生徒たちも喜びますよね。ただし自分たちでゲームをつくるには、めざす目標の設定、皆が公平に参加できるルールづくり、そのうえで堅苦しくなくて積極的に参加したくなるゲームとしての楽しさなどを考えなくてはいけません。これはまさに『共創社会』を実現するための能力に直結するものです」
金沢工業大学の学生プロジェクト「SDGs Global Youth Innovators」が2018年に制作したSDGsを学ぶためのカードゲーム「THE SDGsアクションカードゲームX(クロス)」(詳細別掲)は、まさにこの話を象徴するもの。ゲームを通してSDGsについて理解を深め、「共創社会」をつくるための能力を身につけるという内容ですが、そこでは皆が公平に参加できるルールと、積極的に参加したくなる楽しさも欠かさずに実現されています。

SDGsカードゲームを学生プロジェクトが産学共同で開発。
国連主催のSDGsイベントなど、グローバルに周知活動を展開
金沢工業大学の学生30名が所属する学生プロジェクト「SDGs Global Youth Innovators」が、楽しみながらSDGsについて知ってもらい、アイデアを創出し、一人ひとりの行動につながればという思いのもと開発したのが、「THESDGsアクションカードゲームX(クロス)」です。ゲームは、ある社会課題を解決することで新たな課題が生まれる「トレードオフ」をテーマとしたもので、課題となるトレードオフカードと、「AI」「飛行機」「ダンス」といった課題解決に活用できる多様なリソースカードの2種類が用意されており、場に提示されたトレードオフカードの課題に対して、手札のリソースカードを使いながらチームで課題解決のアイデアを創造するというもの。
(株)リバースプロジェクトのデザイン協力を受け、2018年以降はSDGs推進センターWebサイトからダウンロードできる形としていたが、合わせてクラウドファンディングによる資金集めを行い、2019年5月に商品化を実現。教育現場で教材として活用されるだけでなく、民間企業・自治体や教育機関のSDGs研修用ツールとして採用される事例も増えています。また同年5月にはドイツで開催された国連主催の国際イベントにブースを設置し、世界各国からの参加者にゲームを紹介。幼稚園~大学まで幅広い教育機関の他、自治体、企業などからゲームへの問い合わせが届いている状況で、プロジェクトメンバーはゲームを体感してもらうワークショップ開催のため、日本全国を奔走しています。

ドイツ・ボンで開催された国連主催のSDGsイベント「GlobalFestivalofACTION」にブースを出展。世界中から集まった参加者に学生自らゲームを紹介し、体感してもらった。今後は各地での周知活動に加え、年齢、地域、企業ごとに合わせたバージョンの制作にも取り掛かる予定としています。

「小・中学生くらいの生徒たちも、ゲームを楽しみたいとなると自然と世界や社会の問題について関心を持ちはじめるんです。急に家で勉強するようになった、と先生やご両親から驚かれますね(笑)」
もちろん金沢工業大学においても、SDGsの要素を取り入れた「共創社会」実現のための能力を育成する教育が進められています。その代表と言えるのが、問題発見から解決にいたる過程・方法をチームで実践しながら学ぶ、全学生必修の「プロジェクトデザイン」。金沢工業大学が独自に展開している教育方法です。
『プロジェクトデザイン』は近隣自治体の課題について、研究を通して解決していくという内容ですが、以前は金沢市等の自治体から問題提起を受けてその解決方法を探
り、提案して実現をめざす問題解決を軸としたものでした。しかし現在では、近隣自治体が将来的にどのような地域になりたいのかという未来像を一緒に描くところからはじまり、そのために解決すべき課題を発見する問題発見を軸とした要素を強めています。1~4年次まで通して行う授業なのですが、特に前期の半年間で提案内容を考え、後期の半年間でアイデアを具体化して実験し、提案がユーザーの求めているものなのか検証・評価する2年次の1年間で、学生たちの力は見違えるように伸びていきますよ」

一人ひとりの想いが世界を変える
SDGsとはその行動を応援するもの

「いま私が注力しているのが、若者の能力をいかに引き出すか、そして若者の積極的な活動を評価する大人たちを集めることで彼らの活動の影響力をどのように増していくかということ。具体的には2030年に小・中・高校生と産業界の第一線で活躍する企業家が協力して設立したジョイントベンチャー(複数企業が共同で立ち上げる新規事業)100社を世界に向けて紹介したい。そのための土壌を日本につくりあげることが現在の目標です」2018年には、第1回「ジャパンSDGsアワード」と「SDGsビジネスアワード」の受賞団体を中心に、SDGsに先進的に取り組む組織を集めた「ジャパンSDGsサミット」をSDGs推進センターが中心となって、金沢工業大学白山麓キャンパスで開催。そこでも企業や組織の大人たちと肩を並べて小・中・高・大学生たちがプレゼンテーションやワークショップを実施。社会課題解決の第一線に立つ大人たちにとっても刺激的な内容であり「大人たちのプレゼンテーションを聞くより面白かった!」という声もあがったという。
「SDGsというと堅苦しい言葉に聞こえますが、その根底には、自分たちが正しいと思うこと、将来こういう世界にしていきたいという理想を一人ひとりが社会に向けて発信していこう、という精神があります。そしてそういった姿勢を、国連や世界が後押ししてくれているのだと考えてみてください。これがSDGsのいちばん大切なところです。いままでの常識や過去事例に縛られず、新しい考え方や社会の在り方を築き上げていくには、若い人たちの力は欠かせませんし、新たな社会をつくるための可能性をもっとも持っているのが若い人たちなのです。身近な問題を世界規模で考えながら、多くの人と協調して、誰一人取り残すことなく自分たちの未来を切り拓いていく。そういう人材はどんどん世界を舞台に活躍していけるでしょうし、そういう人材が増えることで、世界は明らかに幸せなものとなっていくはずです」

医療介護施設や企業との連携体制を通して 社会が求める「工学×リハビリ」「工学×看護」技術を創造

人に必要とされるものづくりは
社会を深く知ることからはじまる

工学技術をベースとしたものづくりにおいて、どのようにして社会に必要とされるものをつくるか、利用する現場の人たちが求めているものを、使いやすく利用環境に適応した仕様でいかに開発していくかという観点は、技術の進歩と同様に、テクノロジーを社会に還元していく上でとても重要となる考え方です。
金沢工業大学の鈴木亮一先生が取り組んでいるのは、制御工学の技術をベースとした生活支援技術、福祉医療支援技術の研究開発。医療介護の現場における補助作業やリハビリテーションに活用できる機器開発、技術研究を進めています。
「私の研究は何よりまず“現場”に足を運んで、何が必要とされているのかをリサーチし、現場の人たちの話を聞くところからスタートします。社会が必要としている技術や価値を、工学技術を活用して提供することがテーマであり使命。より高度な機器を開発することも大切ですが、私が考えているのはまず人の役にたつ、人に必要とされる、ということです」
社会が求めるもの、人に必要とされるものを開発するためには、工学などの技術を追究するだけではなく、社会や人々の暮らし、サポートできる人々の存在、現場の悩みや要望を知らなくてはいけません。そのために鈴木先生と研究室の学生たちは、月に1~2回、医療施設を訪れ、どのようなニーズがあるのか研究開発のアイデアを探るとともに、制作した機器を実際に使用してもらってその効果や改善点を現場の人たちと共有しながら、より現場に適した機器に仕上げていくという研究開発プロセスを採っています。
「私は制御工学を専門としてきましたが、現場のニーズを追究していくと、時には複雑な制御技術を使用しない機器が必要となる場面もあります。しかしそのことは大きな問題ではありません。使う人たちのことを第一に考えるならば、様々な技術を組合せ、問題解決を図ることが重要です」

チェアスキーの普及を目的とした取り組みの一環として、学生が中心となって開発した仮想現実(VR)の技術を使ったチェアスキーの体験装置。

その人が持つ力を引き出すための
「助け過ぎない」支援技術

人に必要とされているものづくりをコンセプトに鈴木先生と研究室の学生たちは、「片手で操作できる車いす」「省スペースで利用できる立ち上がり動作支援装置」「屋外用歩行動作支援装置」など、さまざまな生活支援技術、福祉医療支援技術を開発し、その研究テーマは現場のニーズを起点としながら、現在もさらに広がっています。そしてこれら鈴木先生の手掛ける支援技術には、いくつかのポイントが置かれています。それは
・着脱が簡単であること
・他の行為が制限されないこと
・過剰に助け過ぎないこと
これらは介護対象となる人が持っている力や潜在的な力を手助けしてあげること、残存能力を拡張することによって介護対象となる人の機能回復や自立支援をめざすという、支援機器開発に対する鈴木先生の考え方によるものです。「たとえば麻痺等によって片腕しか使えない方に向けて開発した片手で操作できる車いすがありますが、そういう方たちに対して『電動車いすで支援したらいいじゃないか』という考え方もあります。しかしそれは、動かせる腕や足などを使う機会がなくなり、能力の衰えに繋がってしまいます。そうではなくて、できればいまある能力を長く保ちながら、その人の生活を支援していきたい。それがその人のためになると私は考えています」
車いすを片腕で押してしまうと力が左右不均等になるためまっすぐ進むことができないが、鈴木先生が開発した車いすは、片腕で片側の車輪をまわしたことを車いすが感知・計測し、内部の制御機構が力のかからない側の車輪の動きを補助するというもの。ほかにも腕の力が衰えている方の食事補助を目的に、腕を上げ下げする微小な力を感知・計測しながらその動作をサポートする上腕動作支援機器など、支援機器はどれも介護対象者が自分で活動するための「もうひと押し」を実現するものとなっています。

試作した装置は利用現場の方たちを交えながら多角的に評価を行う(写真は歩行支援装置)。このプロセスが利用環境に即し、ニーズに的確に応えるものづくりにつながっていく。

現場や他分野との協働が
研究室ではできない発見を生む

制御工学の技術を活用した支援装置の一方で、鈴木先生の言葉通り、現場のニーズに即した支援装置の研究開発は、その技術の範囲にとらわれることなく進んでいます。その一例が介護対象者の立ち上がり動作と機器で補助するタイミングが合わせられるように声かけ機能を装備した立ち上がり動作支援機、歩行訓練を行う際に骨盤をやさしく支えてあげるリハビリ機器などです。
「理学療法士、作業療法士の方たちの仕事を見ていると、例えば声をかけるだけで対象者の力が引き出されるなど、ポイントを押さえれば目的達成に近づけるのだという気付きがあります。また実際につくった機器が、例えばサイズや駆動音が大きすぎるというように使用環境に適応していないことで、改善が必要になるケースも少なくありません。このような問題を解決することは技術的に難しいものではないですが、研究室にいるだけではわからないことです。現場を見て、機器を使用する人たちの姿を思い描いて開発に取り組んでいくことの大切さを学生にも説いています」
さらに鈴木先生は異なる分野と連携していくことの大切さと意義についてもこう語ります。
「私たちが医療介護の現場で多くの気付きを得るように、他分野で当たり前のことが、私たちにとって新しい発見になることがあり、またその逆も当然あり得ます。もちろんこれは医療介護の分野に限りません。外の世界にネットワークを広げて、他分野の人たちと協働して意見や知識を共有しながら、社会のニーズを探り、必要とされるものを開発していく。エンジニアとして新しいものをつくろうとした時、こういった考え方は今後、さらに大事になってくるはずです」
このようにして鈴木先生は学生たちとともに、多くの医療介護施設はもとより、大手電機メーカーとともに歩行支援装置を、大手精密機器メーカーとともに起立着座動作支援装置を、住宅建材メーカーとともに高齢者向け建材を開発するなど、多彩な分野との連携をとりながらその研究開発を進めています。

物事の本質を見出す力があれば
アプローチ方法は多種多様でいい

「制御やロボティクスといった分野からはじまった研究は、人の生活を何かの形で支援するための機器開発、という大きな目的に変容してきました」という鈴木先生ですが、その研究の広がりを表す近年のテーマに、チェアスキーの普及に関する活動があげられます。
チェアスキーとは下肢に障がいのある人向けのスキーで、座って滑走することができるもの。長くパラリンピックの正式競技であるものの、日本ではまだ知名度も高くなく、鈴木先生は障がいの有無にかかわらず多くの人にチェアスキーを楽しんでもらえる環境づくりに取り組んでいます。この研究は日本チェアスキー協会やチェアスキーに取り組む方たちとも連携して行っており、実際のチェアスキーの体験会に足を運ぶこともあるといいます。2019年には研究室の学生が中心となり、仮想現実(VR)の技術を使ったチェアスキーの体験装置を開発。そのほか入門用のチェアスキーの開発に取組むなど、チェアスキーという競技自体をより多くの人に知ってもらうための周知活動に積極的に関わっています。
「学生たちには物事の本質をとらえる力を身につけてほしいと考えています。どこに問題があるのか、何を解決すればより良い世界をつくることができるのか。技術や知識はそれに取り組むためのツールであり、その取り組み方に制限はありません。社会の問題に対する私のアプローチがどんどんと広がっていったように、社会と積極的に触れ合い、時代の変化に合わせながら、社会に必要とされる新しい価値を生み出せることが大切です」

腕を上げ下げしようとする利用者の力を感知・計測し、その力に応じて制御を行いながら動作サポートを行う上腕動作支援装置

大手精密機器メーカーと共同開発した、狭所空間でも使用できる起立着座動作支援装置。ニーズに応じた改善を重ねた結果、当初装備される予定の制御機構は省略されることとなった。
腕を上げ下げしようとする利用者の力を感知・計測し、その力に応じて制御を行いながら動作サポートを行う上腕動作支援装置

大手精密機器メーカーと共同開発した、狭所空間でも使用できる起立着座動作支援装置。ニーズに応じた改善を重ねた結果、当初装備される予定の制御機構は省略されることとなった。